ナナコとツトムが段ボール箱を抱えてくると、駐車場で夕涼みをしていた向かいの棟の庄田さんが、めざとく見つけてやってきた。
庄田さんは、六十過ぎのいわゆる“オヤジ”だが、ずっと独り身で、その代わりと言ってはなんだが、こっそり部屋でネコを飼っていた。
雑種だが真っ白い綺麗なメスネコで、「ケテちゃん」と呼んで可愛がっていた。ケテちゃんとは、どうやら歯の抜け落ちた庄田さんの言うところの「キティちゃん」らしかった。
「何、何?」と庄田さんが目を輝かせながら好奇心一杯の様子でやって来たので、ナナコは仕方なく、段ボール箱を見せた。
「ウチもネコを飼う事にしたんです」
庄田さんは、どれどれと言って段ボールの中を覗き込み、「かわいいー!」と野太い声で叫ぶと、子ネコを抱き上げた。
陽の光の中で見ると、子ネコは一層不細工に見えた。毛はあちこちが剥げ掛かっていたし、額の模様は、なんだか縦に渦巻いていて、それが人の目のように見えて不気味だった。
庄田さんは、すぐに子ネコの体を引っくり返し、「ふん、この子はメスだな」と言った。
「メスかあ……」とナナコはまたもやがっかりした。
ナナコは以前実家でメス犬を飼っていたことがあり、その世話が大変だったことを思い出したからだ。
年に何回かある生理の鮮血、生まれてから一年も経たないうちにやってくる発情期など、厄介事が次々と降りかかってきた。そして、その時期になると、ナナコの家の雌犬が放つフェロモンが、遠くの方まで流れていくのか、ずいぶんとたくさんの雄犬達が家の前をウロつくようになった。
まだ思春期真っ最中のニキビ面の女子中学生だったナナコは、大きなシェパードから小さなマルチーズまでが、こぞって、家の雌犬、ケン吉―顔が狐みたいだったので、そんな名前をつけられたーに「キューン、キューン」とアプローチする姿を“いやらしいッ!”と思いながら眺めていた。
やがてケン吉は、数多いる求婚者の中から、一番体が大きくてがっしりとした、毛並みの艶やかな犬を選ぶと、他の雄犬たちを威嚇して追い帰し、なんと、あろうことか、昼夜を問わず二匹は合体し始めたのだ。
つづく