トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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レンゲの花の咲く頃に

「レンゲの花の咲く頃に」11

「……くん、翔くん」 誰かが呼ぶ声がして、翔くんは目が覚めました。 レンゲ畑で遊んでいて、いつの間にか寝入ってしまったようです。 見るとママが畦道から手を振っています。 「ミカちゃんが遊びに来たわよ」 「はーい! お母さん、今いきます」 翔くんは元…

「レンゲの花の咲く頃に」10

春になり、家の近くの野原には、一面レンゲ草の花が咲いています。 毎年美しく咲き誇るのですが、今年もその赤くて小さな花を咲かせました。 翔くんはその中にひとり立ち、耳を澄ませていました。 空にはひばりが舞っていて、その歓びに満ちた声を響かせてい…

「レンゲの花の咲く頃に」9

ある日、幼稚園の庭で、翔くんはミカちゃんという女の子に水を掛けられました。 ミカちゃんは体の大きな女の子で、いじめっ子でした。 力が強いので、何人もの子が泣かされていたのです。 怒った翔くんが「待てーッ!」と追いかけると、ミカちゃんは笑いながら…

「レンゲの花の咲く頃に」8

だから翔くんは、幼稚園の園庭で他の子に泥団子を壊された時も、ポヨポヨを呼ぶことをガマンしました。 大嫌いなにんじんがお弁当に入っていたときにも、思わずポヨポヨを呼びそうになりましたが、ガマンしました。 そうしてベソをかきながら残さず食べまし…

「レンゲの花の咲く頃に」7

翔くんは少しずつ、外の世界に心を開かなくなっていきました。 そうして、一日の大半をポヨポヨとだけ過ごすようになりました。 ポヨポヨと居る時だけ、翔くんは元気を取り戻すのです。 翔くんはポヨポヨと一緒に、自由に空想の世界で遊び回りました。 そこ…

「レンゲの花の咲く頃に」6

次第に翔くんは変わり者扱いされていきました。それは三歳で入った幼稚園でも同じことでした。 翔くんには周りの友だちがしている遊びなんて、馬鹿馬鹿しくてやりたくありませんでした。 だから、先生からの連絡帳にはいつも、 「今日も隅っこでひとり、天井…

「レンゲの花の咲く頃に」5

一年が過ぎて、ようやく翔くんもこの世界に馴れてきました。立ち上がれるようになると、すぐに歩くこともできるようになりました。パパとママは大喜び。 でも言葉を話すことはまだできませんでした。実のところ翔くんは、言葉を使うことを拒否していたのです…

「レンゲの花の咲く頃に」4

「……くん、翔くん、何をそんなに泣いているんだい?」 ある日、いつものように翔くんが、精一杯大声を上げていると、そんな声が聞こえてきました。 驚いて見ると、天井近くに黄色くてふわふわとしたものが浮かんでいました。よく見ると、その物体には小さな…

「レンゲの花の咲く頃に」3

翔くんはこの地上に生れ落ちてからすぐに、この場所が不便なことに気がつきました。 まず体が重くて思うように動かせません。 今までは自由に大空を飛べていましたし、行きたいと願えばその場所に瞬時に行くことも出来ました。もちろん、雲の上にだって乗る…

「レンゲの花の咲く頃に」2

皆で一列になって、地上へ降りる順番を待っていると、他の魂たちも期待でワクワク、ドキドキしていることが分かりました。それを見ると、小さな魂も身が引き締まるようでした。 いよいよ、小さな魂の番になりました。 天使の合図のもと、小さな魂がふわり下…

「レンゲの花の咲く頃に」1

かつて子どもだった、すべての人に捧ぐ――。 ある日、小さな魂が雲に乗って地上を見下ろしていると、悲しそうな顔をした女の人が見えました。その傍らには、やはり沈痛な面持ちの男の人が、彼女の肩を抱いて寄り添っていました。 小さな魂が「どうしたのかな…