トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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ニャン太を探して

「ニャン太を探して」116

その骨ばった猫の背中を撫でながら、ナナコはなんだか切なくなった。 あれから八年も経っているのだから、ニャン太はもう十歳のおじいさん猫になっている筈だった。 けれど、こうして元気で相変わらず外で遊んでいられるのは、よほど大切にされ可愛がられて…

「ニャン太を探して」115

最近のリョーヘイはやたら活発でハイテンションな日もあれば、日がな一日ぼんやりした表情で縁側に座っている時もある。 ナナコには予測不能だった。 車を出してなどと気軽に頼める状態ではなかった。 ナナコは、リョーヘイの一気に年をとり、人を寄せ付けな…

「ニャン太を探して」114

ナナコは試しに、自分一人が暮らせるマンションが借りられるかどうか不動産屋を訪ねてみた。すると、何年か前には剣もほろろだった態度が一変していた。 それはナナコに今や収入があるということも大きかったが、時代の方が大きく変貌していたのだ。今までは…

「ニャン太を探して」113

夫のリョーヘイは、昔の猛々しさがなくなり、今ではすっかり子どものようになってしまった。 それは本当に幼児のようで、家へ帰ると忙しく家事をこなすナナコの後を付いて回り、何故トイレのタオル掛けはこの位置でないといけないのか、何故台所のおたまは、…

「ニャン太を探して」112

そういうハナエさん自身は、お舅さんの介護でパートを辞めることになってしまった。ナナコは寂しかった。なんだかんだと言いながら、側でいつもナナコを励まし支えてくれたのは、ハナエさんだったからだ。ナナコは親しい友を一人失うことになってしまったの…

「ニャン太を探して」111

それから何年かがあっという間に過ぎていった。 ツトムは今年中学を卒業した。 ツトムは、中学二年に進級した頃、不登校になった。もうお腹が痛いなどと言わずに、部屋から出てこなくなった。 そしてクラスメートや担任の先生が訪問した翌日だけは学校へ行っ…

「ニャン太を探して」110

ナナコは夫婦の寝室を自分の部屋として使っていたが、その広さを持て余していた。 もともと二人で使える様に設計してあるので、ナナコの荷物だけでは少なすぎた。 今まで一部屋に三人で肩寄せあって寝ていたが、今度の寝室では、真ん中にポツンと一組だけ布…

「ニャン太を探して」109

リョーヘイは、自室に籠もりきりになり、夕食時になっても階下へ降りて来る事はなかった。 何を食べているのかも分からなかった。 ただナナコの作った食事には相変わらず手をつけなかった。 そうして、家族が寝静まったあと、一人キッチンへ降りてきては、酒…

「ニャン太を探して」106

お姫さまはとうとう泣きだしました。泣き声はだんだん高くなるばかり、どうしてもあきらめがつきませんでした。ところが、こうして泣いているとき、だれかよびかけるものがありました。 「どうなさろうというのです、お姫さま、そんなにひどく泣いて。心ない…

「ニャン太を探して」105

昼過ぎに目覚めると、玄関にニャン太の鳴く声がした。 久しぶりにニャン太が帰ってきていた。 ニャン太はすっかり野良らしく、乾燥したキャットフードを食べなくなっていた。 ナナコは奮発してシーチキンの缶を開けてニャン太へ与えた。 食べ終わると、ニャ…

「ニャン太を探して」104

ナナコはいつも疲れていた。 眠っても疲れはとれず、朝は起きられなかった。 時々背中に背負っている全ての荷物を放り出し、自由になりたいと思ったが、それは叶わぬ夢だった。 その頃になると、ナナコは自分のために休みを取るようになっていた。 今までは…

「ニャン太を探して」103

家探しは難航した。 そしていまや完全にリョーヘイは心を閉ざしてしまっていた。 リョーヘイは能面のような顔つきになり、時折口に出る言葉は辛辣な皮肉だけだった。 そんなリョーヘイが特にニャン太には激しい攻撃性を剥き出しにして、ニャン太が部屋へ入ろ…

「ニャン太を探して」98

「ねぇ、ねぇ……ったら」 ある夜、ナナコは寝ているリョーヘイに囁いた。ナナコたちが寝室にしている部屋の一番入り口付近にいつもリョーヘイは布団を敷いて寝ていた。間にツトムを挟んで、ナナコは一番奥の窓際に寝ていた。三人分の布団を敷くと、部屋全体が…

「ニャン太を探して」97

ハナエさんは、そんなナナコに、部屋が狭いからそうなってしまうのではないかとアドバイスしてくれた。 部屋が狭いとそれだけでストレスが溜まってしまう、だからリョーヘイが暴れてしまうのではないかと。 なるほど、一理ある……とナナコは思った。 というの…

「ニャン太を探して」96

その言葉通り、それ以来リョーヘイはナナコにすっかり心を閉ざしてしまった。 語りかけても無視するか、生返事しかしなくなる。 夕食も一緒に食卓を囲むことがなくなった。 いつも一人、仕事帰りに買ってきた酒のつまみで食事を摂り、こちらの方を見ようとも…

「ニャン太を探して」95

ナナコはもう訳が分からなかった。夫とは言葉が通じなくなってしまったのだと痛感した。 リョーヘイはその夜、酔いつぶれて、居間で寝入ってしまった。ナナコが声を掛けると、目を閉じたままのリョーヘイがボソリとつぶやいた。 「お前は俺を裏切った……」 「…

「ニャン太を探して」94

その夜、リョーヘイは久しぶりに荒れた。 もちろんナナコが帰ってきたリョーヘイに詰め寄ったからだ。 「金田さんは、あなたが待ってくれって言ったのに何もしないから、請求書を持ってきたって言っていたわよ、一体どういうこと」 ナナコの言葉に、リョーヘ…

「ニャン太を探して」93

なんだよ、私には受け取るな、と言いながら、相手にはいい顔していたのか……、すべては自分が逃げおおすために―。 ナナコは腹の底からメラメラと怒りが湧いてくるようだった。 もう誰がお前の言う事なんか聞くもんか―!と叫んだ。 ふざけんなッ! あんたの為…

「ニャン太を探して」92

リョーヘイは、「やる、やる」と言いながら、一向に金田との話し合いをしようともせずに、まるで金田が諦めるのを待っているかのようだった。 ナナコはそんなリョーヘイにほとほと嫌気がさしていた。 また毎日のようにやってきては、家の前で怒鳴っている金…

「ニャン太を探して」91

しかし事態はそれだけで終わらなかったのだ。 夕方になると、決まって金田が家へやってくるようになったのだ。 ナナコはリョーヘイからきつく言われていたので、金田がいくら請求書を持ってきてもガンとして受け取らなかった。 「いえ、主人が居る時にお願い…

「ニャン太を探して」90

ところがそれからしばらくして、やはりナナコが夕食を作っていると、金田がやって来た。 そして、申し訳なさそうに頭を掻き掻き、 「これ、修理代です。よろしくお願いします」 と封書に入った請求書を渡すではないか。 てっきり決着が付いていると思ったナ…

「ニャン太を探して」89

リョーヘイが帰って来た時に、そのことを話すと、 「ええっ!? 俺はやっていない、変だよ、それは」と顔を真っ赤にして怒った。 「でも、傷ついたって言っているから、修理してくださいって頼んだわよ」 とナナコが言うと、 「それは変だよ、ちょっと俺が行…

「ニャン太を探して」88

ナナコが返答に困っていると、金田は、 「この間、ご主人、石を投げていたでしょう。俺、ヤバイなぁって思って見てたんスけど、やっぱ朝見たら、傷が二つも付いてたんスよ。弁償してもらえますかね? 修理はこっちで出すんで」 と明るく言った。 リョーヘイ…

「ニャン太を探して」87

翌日の夕方、ナナコが夕食を作っていると、トントンと玄関のドアを叩く音がした。ナナコが開けると、金髪ロン毛の青年が立っていた。 咄嗟のことですぐには思い出せなかったが、よく見ると、向かいのアパートの住人だった。 確か建設作業所が社宅として借り…

「ニャン太を探して」86

ニャン太はご飯を台所で食べ終わると、いつものように椅子の上で毛づくろいを始めた。 「そう言えば」ふと気づいてナナコは、リョーヘイに言った。 「夕べ、ニャン太はあなたの側をずっと離れなかったのよ。あなたが酔っ払って、二階の人のドアの前にいた時に…

「ニャン太を探して」85

家に入ろうとするリョーヘイをナナコは慌てて引き止めた。 そして、夕べのことは、大家さんにだけはちゃんと挨拶に行かなければならないと伝えた。 でなければ、今後は私たちが住みにくくなると。 すると、リョーヘイはあっさり「分かった」といい、夫婦揃っ…

「ニャン太を探して」84

仕事からの帰り道、菓子折りを買って戻ってくると、リョーヘイが道を横切ってアパートへ向かってくるのが見えた。 「会社行ったの?」ナナコが驚いて声を掛けると、「当然だろ!」と怒ったように答えた。 「―!?」 意外だった。 夕べはついにパトカーまで呼…

「ニャン太を探して」83

翌朝―。 リョーヘイが何か言ったら、思いっきり責め立てようと、ナナコはしばらくその場で伺っていたのだが、顔が痛いと言ったっきり、何も言わなかったので、ナナコは、玄関のドアを力いっぱい叩きつけ、外へ出た。 だが外へでたナナコは、その明るさに一瞬…

「ニャン太を探して」82

「う……ん。顔が痛い……」しゃがれた声でリョーヘイがつぶやいた。 朝の仕事へ行く準備をしていたナナコは、忙しく身体を動かしながら、「当たり前でしょ!」と怒鳴った。 「一体、夕べ何があったと思っているのよッ!」そうリョーヘイに向かって吐き捨てた。 …

「ニャン太を探して」81

ナナコはその場に倒れそうになった。 せっかく連れて行ってもらおうと思ったのに。 ようやくこいつと別れられると思ったのに。またこんな化け物と一晩過ごせって言うの? ナナコが呆然としていると、玄関で殊勝に正座していたリョーヘイが、突如として駐車場…