「ふぅ……」
その様子を天上から見ていた便所の神さまは、思わず溜息をついた。
そして、背後にあった最後のうんちの形をした〝運〟を、地上へと放り投げた。
そう、余りにたくさんの人々が良いことだけを求めたので、便所の神さまはご自分の持ち分である〝運〟をすっかり使い果たしたのだ。
これからはいくら便所掃除をしても、いいことなど起こらないだろう。
地球上のトイレは確かにキレイにはなっていった。だがそれに反して人々の心は、逆に欲得ずくで汚れてしまったのだ。
ふぅ……。
便所の神さまは、もう一度深い溜息をついた。
ご利益が無くなった時、果たしてどれくらいの人々がトイレ掃除を続けてくれるのか、神さまには見当もつかなかった。
トイレ掃除と運は何の関係もないが、それでもいつもトイレを清潔にしていると、やがてはそれが心の浄化をうながし、自分自身を輝かせることに繋がってゆく。
人は神の力などではなく、自分の力で自ら成長させるものなのだ。
そして、そういう人々が本当の意味で〝便所の神さま〟になるのだと、思うのだった。
そうして、
「ご利益、ご利益」
と言いながら熱心に、トイレ掃除にいそしむ地上の人々を、悲哀の眼差しで眺めるのだった。
おしまい