トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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「レンゲの花の咲く頃に」11

 

「……くん、翔くん」

 

 誰かが呼ぶ声がして、翔くんは目が覚めました。

 

レンゲ畑で遊んでいて、いつの間にか寝入ってしまったようです。

見るとママが畦道から手を振っています。

 

「ミカちゃんが遊びに来たわよ」

「はーい! お母さん、今いきます」

 

 翔くんは元気よく立ち上がると、ママをめがけて走り出しました。

 

「お母さん……?」

 

それを聞いて、ママは嬉しそうにつぶやきました。

 

「今までママだったのに?」

 

翔くんは頬っぺたを輝かせながら走って来ます。ママはその姿を見ながら、翔くんがなんだかちょっぴり大人になったような気がしました。

 

笑顔で走り込むと、翔くんはママの身体に飛びつきました。

ママは「キャッ」と声上げ、翔くんを受け取めると、「あそこで何していたの」と尋ねました。

 

翔くんはキョトンとしました。

 

自分でも何をしていたのか、思い出せなかったからです。だから、「分かんない」と答えました。

 

それを聞くとママは笑い出しました。翔くんらしいと思いました。

 

いつも目には見えないものと遊んでいる、翔くんらしい、と。

 

「翔くーん、あ・そ・ぼーっ!」

 

 家の裏庭から、ミカちゃんが顔を出して、元気のいい声で呼んでいます。

 

「うん!」

 

 翔くんも笑顔で答えました。

 

 そうして、ママと一緒に家の方へと歩いていきました。

 

仲良く、手を繋いで――。

 

そんな母子を、風に吹かれたレンゲの花が、いつまでも見送るのでした。