「……くん、翔くん」
誰かが呼ぶ声がして、翔くんは目が覚めました。
レンゲ畑で遊んでいて、いつの間にか寝入ってしまったようです。
見るとママが畦道から手を振っています。
「ミカちゃんが遊びに来たわよ」
「はーい! お母さん、今いきます」
翔くんは元気よく立ち上がると、ママをめがけて走り出しました。
「お母さん……?」
それを聞いて、ママは嬉しそうにつぶやきました。
「今までママだったのに?」
翔くんは頬っぺたを輝かせながら走って来ます。ママはその姿を見ながら、翔くんがなんだかちょっぴり大人になったような気がしました。
笑顔で走り込むと、翔くんはママの身体に飛びつきました。
ママは「キャッ」と声上げ、翔くんを受け取めると、「あそこで何していたの」と尋ねました。
翔くんはキョトンとしました。
自分でも何をしていたのか、思い出せなかったからです。だから、「分かんない」と答えました。
それを聞くとママは笑い出しました。翔くんらしいと思いました。
いつも目には見えないものと遊んでいる、翔くんらしい、と。
「翔くーん、あ・そ・ぼーっ!」
家の裏庭から、ミカちゃんが顔を出して、元気のいい声で呼んでいます。
「うん!」
翔くんも笑顔で答えました。
そうして、ママと一緒に家の方へと歩いていきました。
仲良く、手を繋いで――。
そんな母子を、風に吹かれたレンゲの花が、いつまでも見送るのでした。
了