医師は目にライトを当てて、
「ほら、よく見てください。ここが白く濁っているでしょう? 見えていないんですよ」
見ると確かに、ネコの左目は、濁っていた。
「……」
ナナコは冷水を浴びせかけられたような気がした。
「先生、ど、どうなるんですか? この子、歩けますか?」と動揺しているナナコに向かって医師は、事も無げに
「いや、ネコは目で見て歩いているわけではないですからね。片目が見えなくても大丈夫です。なんの心配もありません」と言った。
それを聞いてナナコはホッとしたが、すぐさま疑念が湧いて来た。
「なんでこの子は目が見えないんですか? 尻尾も短いし……誰かにいたずらされたんですか?」
ナナコの脳裏にはニャン太を見たときの第一印象が強く甦って来た。毛の剥げかけたヨロヨロしたネコ、誰かにいたずらされたのかと思う程の短くて曲がった尻尾。児童館で拾われる前に、虐待されたのではないかと思ったのだ。
しかし、医師は、ナナコの言葉をイヤイヤと否定しつつ、
「この子の目が見えないのは、生まれてくるときに感染したんでしょう。おそらく毋ネコも野良で、病気を持っていたんでしょうな。それが感染(うつ)ってしまって、目が見えなくなったんでしょう。尻尾はまあ、こんな形ですからね。でも、別に切られたと言う訳ではないですよ」と言った。
「そうですか……」
虐待を受け、障害を負ってしまったネコ、というナナコの疑惑は払拭されたが、ということは、このネコは、どう見積もっても、もともと不細工なネコということかー。
「……」
ツトムとネコを連れての帰り道、ナナコは暗澹たる思いだった。目の見えないネコかあ……。うまくやっていけるのだろうか? なんだか残り物には福があるーどころか損をしたような気がした。
私って、いつも外れものばかりが当たるのよね……などと自嘲気味に独りごちたりした。ただ一つ良かったことは、どうやらこの子にぴったりな名前を付けられそうだということだった。
ニャン太―。
家に帰って話すと、リョーヘイもツトムも何の異論もなく、当初の予定通り、子ネコはニャン太と名付けられたのだった。
つづく