ケン吉を柵にいれても、その隙間から繋がるし、それではと、雄犬の方を追い払っても、いつの間にか舞い戻って来る。“避妊”などというものがまだ一般的でない大らかな時代だった。
しかし、凄まじいのは、その声で、二匹で重なり合いながら、「クゥーン」「キューン」「クン、クゥーン」などと何とも切ない声を張り上げる。その度に、「あ、あいつら、またやってるよッ!」と、ナナコは叫び、読んでいた少女マンガを放り出すと、庭へ飛び出しては、竹箒で雄犬の背中を打ち付ける。しかし、どんなに打ち付けても、二匹は交尾を止めることなく切ない咆哮を上げ続けるのだった。
やがて春になる頃に、その雄犬そっくりの子犬達が生まれたときには、ナナコは複雑な思いがしたものだったが……。
そんなことが一瞬のうちに、ナナコの脳裏に浮かんで来た。
「……」
「しっかし、かわいいな、名前はなんてするんだい?」と庄田さんに聞かれ、「名前?」とナナコはまた考え込んだ。
名前なんて、考えていなかった。漠然とオスなら、“ニャン太”にしようと思っていたのだが、メスだったとは……。ナナコは返答に困った。
リョーヘイが仕事から帰って来て、ツトムと三人で、この新しい同居人の名前を考えたが、まとまらない。リョーヘイは、マーガレット、エリザベス、キャサリン……など、まるで昔のアメリカの台風に付けたような名前ばかりを上げるし、ツトムはツトムで、アスカ、レイ、ナノハ、ユイなど、流行りのアニメの主人公の名前ばかりを付けたがる。そしてナナコには、ニャン太という名前しか思い浮かばないのだった。
だが、夫と子どもが主張するどの名前も、このふてぶてしい顔をした子ネコには似合わなかった。かといって、ニャン太と言う名前をメスにつけるのもあんまりだった。
しかたなく、花子という名前にした。それもあんまりだろうということで、せめて“ハナ”にした。我ながらこのネーミングセンスに、ナナコはがっかりしてしまった。
こんな全然可愛くないネコに、これまたなんの捻りもない“ハナ”なんていう安直な名前をつけて、そして、それをまた一生呼び続けなければならないなんて……。
しかし、どうしても他に、いい名前が思い浮かばないのだった。
つづく