子ネコとの生活はある意味、無謀だったのかもしれない。
二DKのアパートには、大人二人と子供一人だけでも充分狭いのに、それに予測不能な生き物まで加わったのだから。
まずナナコたちが困ったのは、子ネコのトイレトレーニングだった。玄関の狭い三和土にネコ用のトイレを作ったにも関わらず、ニャン太は台所の机の下におしっこをした。いくら、猫砂の上に座らせても分からない。
その度にナナコは金切り声を上げて、ニャン太を追い回すのだが、無駄だった。ネコには言葉も通じないし、どうやってコミュニケーションを図ればいいのか見当もつかなかった。
リョーヘイが会社のネコ好きな人から聞いてきたと言って、玉葱など、匂いのするものを机の下に切っておいておくと、それが効いたのか、ようやくニャン太は、きちんとトイレでするようになったのだが……。
それから食べる物にも気を遣った。ナナコの子どもの頃は、ネコには人間の残り物を与えていた。犬もそうだった。ところが、いつの間にか世の中は飽食の時代と言われるようになり、ネコに人間と同じ物を食べさせると、病気になると言われる時代になってしまっていたのだ。
ナナコはそれを友人から聞いて知っていたのだが。友人の飼っている猫が病気になり、動物病院へ連れて行くと、「人間の食べるものを与えないでください」と言われたと言うのだ。
人間の食べ物には、添加物が多く含まれており、体の大きな人間には平気でも、体の小さな猫には危険なのだそう。だから今は、市販されているキャットフードだけを与えていると、その友人は言っていた。
「……」
それを聞いた時には、「ふーん、時代だね」とリョーヘイと言い合っていたものだが、いざ自分たちがその立場になると悩んでしまった。
ニャン太には小さい時から、あのカリカリとしたキャットフードを食べさせるべきか、それとも、少しくらいは人間の食べ物を与えてもいいのかと。
ナナコは、普段はキャットフードでも、たまのお祝いには、煮干しなどあげてもいいのではないかと思っていた。しかし、これはたちまち会社のネコ好きな先輩から情報を仕入れて来たリョーヘイに却下された。
ネコは最初っからキャットフードにしなければ、キャットフードを食べなくなるのだと。そして途中でおいしいものを味わうと、もうキャットフードに見向きもしなくなるので、ニャン太には最初っからキャットフード一本でいこうと。
「……」
ナナコは、なんとなく釈然としない気持ちがしていた。キャットフードを最初に見たとき、こんなテトラポットの形をしたものが、本当においしいのだろうか?
と疑問に感じたからだ。匂いもキツくて、自分ならとても食べられないだろうと思った。
ネコは本当にこんなものを欲しがるのだろうか?
つづく