ナナコは試しに、自分一人が暮らせるマンションが借りられるかどうか不動産屋を訪ねてみた。すると、何年か前には剣もほろろだった態度が一変していた。
それはナナコに今や収入があるということも大きかったが、時代の方が大きく変貌していたのだ。今までは無理だった一人暮らしの女性や収入のない人間にも保証人なしで貸してくれるような物件も出てきていたのだ。つまりは、お金さえあれば、制限なしに自由な生活が手に入るということだった。
ナナコの心に希望が芽生えた。
いざとなれば私はいつでもあの家を出て行けるんだ。もう夫に頼らなくてもいいんだと思った。このことはナナコの心を一層強くさせるのだった。
初夏の日の夕方―。
駅前のスーパーで買い物をしたナナコは両手一杯に買い物袋を提げていた。この家では誰も買い物などしないのだ。主婦のナナコがやる以外はなかった。
だが荷物は重く、だんだんと肩が痛くなってきた。しかし、家まではまだ随分遠かった。こんな時、他所の夫なら、妻の手伝いくらいするだろうにリョーヘイには何も頼めなかった。
つづく