ニャン太を追い出す形になってしまった夫婦は気まずかった。
だがナナコは努めて明るく言った。
「大丈夫。ニャン太はそう遠くには行っていないと思うよ。だって、猫にはテリトリーがあるからね。きっと新しい家も探し当てて来るよ」
「うん……」
ツトムは浮かない顔でそう返事した。それは信じていない証拠だった。
もうじき桜が咲くという頃に一家は引越しをした。
忙しく新しい家に荷物を運び入れていた時だった。夫の衣類も夫婦の寝室に入れようとしたナナコに、リョーヘイが改まった様子で言った。
「ちょっと話があるんだけれど」
「何?」
珍しく話があるという夫に、ナナコも手を止めてリョーヘイを見つめた。ナナコの視線を充分に受けながら、リョーヘイはこう切り出した。
「俺さ、これまでお前にさんざん、決断しない男だって言われてきただろう。早く決めろとかさぁ、急かされてさ」
「……」
「だからさあ、俺、考えたんだけど、これからはもう決断しないようにしようと思っているんだ。決断しないことを決めたっていうか」
「えっ?」
つづく
暑い、暑い~(*´Д`)