夫のリョーヘイは、昔の猛々しさがなくなり、今ではすっかり子どものようになってしまった。
それは本当に幼児のようで、家へ帰ると忙しく家事をこなすナナコの後を付いて回り、何故トイレのタオル掛けはこの位置でないといけないのか、何故台所のおたまは、この場所に置かなければならないのかなどと一々うるさく問いかけた。
そして夜は夜でいつまでも一緒にいたがり、話をしてもらいたがった。それはおもに雑談や噂話だったが、翌日も仕事のある身としてはそれが段々と苦痛に思えてきた。
リョーヘイはナナコにいつも側にいてもらいたがり、手を掛けてもらいたがった。
あれほど一人になりたがっていたのに、今ではナナコの寝室に押しかけてくるようになった。
だがナナコにだって、自分ひとりの時間は大切だった。
一人でゆっくりと読む本の時間、一人でゆっくりと肌のお手入れをする時間、そんなものがリョーヘイのせいで削れて行くと、ナナコの心は荒んできて心底一人になりたいと切望するようになった。
ナナコはもういい加減にリョーヘイから解放されたかった。
もういいんじゃないか? 私はよくやったのではないか?
と自分を慰めるようになっていた。
これ以上、リョーヘイに自分の人生を邪魔されたくはなかった。
つづく