トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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「ホラーな彼氏」5

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 私は涙を拭いて立ち上がると、棺の蓋をこじ開けて、中から先輩を抱き起こした。

 

「む—!?」

 

 お、重い・・・。先輩はびくともしない。しかも体が堅くて持ち上げられない。

 私は梯子を下まで下ろすと、それに先輩の体を括り付け、下から少しずつ持ち上げていった。「う〜ん・・・う〜ん・・・」もうすでに体中泥だらけ、汗びっしょりだ。

 でも、そんなことはどうでもいいことだった。先輩が生き返りさえすれば・・・。

 

やっと先輩の体を引き揚げると、私はそのまま一輪車に乗せて、森の中の阿古屋さんの屋敷までひた走りに走って行った。

 

屋敷に到着すると、阿古屋さんは居間のテーブルやソファを片付けて、床に魔法円を描いて待っていた。

 私が真っ黒なのを見て、ぷっと吹き出し、「なあに、その姿?」と笑った。そして先輩を見ると、「あら、ハンサムじゃない?」と言った。

 

だから言ったでしょ?こんなイケメンをむざむざ死なせる訳にはいかないのッ—そうこころの中でつぶやきつつ、私は阿古屋さんの指示を待った。

 

「じゃあ、彼を裸にして」と阿古屋さんはそう言った。

 

「え、ええーッ!?」

 

ぎょっとした私に、阿古屋さんは

 

「裸にしなきゃ、効き目がないのよッ!早くして」と怒鳴ったので、仕方なく私は、

「先輩、ごめん!」とこころの中で謝りつつ、白装束を脱がせて、その体を魔法円の中へそっと横たえたのだった。

 もちろん、全ての作業は目はつぶって行った。

 しかし、そんな私の努力に阿古屋さんは全く無反応で、先輩の体の上に香油を掛けると、大きな杖を取り出し、呪文を唱えながら、ぐるぐると魔法円を周り始めた。

  

 エコー エコー アッサラー

 エコー エコー ゾメラク

 エオ エオ エアオー

 

 そうやってしばらく経った頃であろうか、風が強くなり外の木々がざわめき始めた。満月に雲が掛かってきて、辺りが急に深い闇に閉ざされた。

 

 エコー エコー アッサラー

 

 風はますます強くなり、窓ガラスがガタガタ揺れ始めた。それと同時にサイドテーブルに置いてあった紙の束が舞い上がった。

 

 エコー エコー ゾメラク

 

 ボッ—火のついていない暖炉から炎が燃え上がり、私は声も出せずに、それを見つめていた。

 

 エオ エオ エアオー!

 

 

 

つづく

 

 

嫁の家出 (実業之日本社文庫)

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