私は涙を拭いて立ち上がると、棺の蓋をこじ開けて、中から先輩を抱き起こした。
「む—!?」
お、重い・・・。先輩はびくともしない。しかも体が堅くて持ち上げられない。
私は梯子を下まで下ろすと、それに先輩の体を括り付け、下から少しずつ持ち上げていった。「う〜ん・・・う〜ん・・・」もうすでに体中泥だらけ、汗びっしょりだ。
でも、そんなことはどうでもいいことだった。先輩が生き返りさえすれば・・・。
やっと先輩の体を引き揚げると、私はそのまま一輪車に乗せて、森の中の阿古屋さんの屋敷までひた走りに走って行った。
屋敷に到着すると、阿古屋さんは居間のテーブルやソファを片付けて、床に魔法円を描いて待っていた。
私が真っ黒なのを見て、ぷっと吹き出し、「なあに、その姿?」と笑った。そして先輩を見ると、「あら、ハンサムじゃない?」と言った。
だから言ったでしょ?こんなイケメンをむざむざ死なせる訳にはいかないのッ—そうこころの中でつぶやきつつ、私は阿古屋さんの指示を待った。
「じゃあ、彼を裸にして」と阿古屋さんはそう言った。
「え、ええーッ!?」
ぎょっとした私に、阿古屋さんは
「裸にしなきゃ、効き目がないのよッ!早くして」と怒鳴ったので、仕方なく私は、
「先輩、ごめん!」とこころの中で謝りつつ、白装束を脱がせて、その体を魔法円の中へそっと横たえたのだった。
もちろん、全ての作業は目はつぶって行った。
しかし、そんな私の努力に阿古屋さんは全く無反応で、先輩の体の上に香油を掛けると、大きな杖を取り出し、呪文を唱えながら、ぐるぐると魔法円を周り始めた。
エコー エコー アッサラー
エコー エコー ゾメラク
エオ エオ エアオー
そうやってしばらく経った頃であろうか、風が強くなり外の木々がざわめき始めた。満月に雲が掛かってきて、辺りが急に深い闇に閉ざされた。
エコー エコー アッサラー
風はますます強くなり、窓ガラスがガタガタ揺れ始めた。それと同時にサイドテーブルに置いてあった紙の束が舞い上がった。
エコー エコー ゾメラク
ボッ—火のついていない暖炉から炎が燃え上がり、私は声も出せずに、それを見つめていた。
エオ エオ エアオー!
つづく