トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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「ホラーな彼氏」16

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先輩は困ったような慌てたような顔で、腹を押さえるが、

それは止まらない。

 

道行く人が何事かと、鼻をつまみながらこっちを見ていた。

 

私はなんとかしなければと思いつつも、もう力がでなかった。

私はその場にへたり込んだ。そして祈った。

 

「神さま、助けて・・・!」

 

「お前ら、どうした?」

 

ふいに声がして私は顔を上げた。

白い軽トラックが止まって、中から大きな丸顔の若い男が見ていた。

そして、

「こ、これは・・・!」は絶句した。

 

「あ、朝吉さん・・・」

私は涙声になった。

 

肉屋の朝吉はまだ若いのに、でっぷりと肥え太り、

いつも血のついた薄汚れたエプロンを掛けていた。

 

顔の肉に押しつぶされたような細い眼が冷たく光り不気味だった。

でも今はまるで救世主に見えた。

 

「た、助けて・・・」

 

私は車から降りてきた朝吉に助けを求めた。

 

しかし朝吉は私の手を振り払い、あろうことか雨靴を履いた足で私を蹴ったのだ。

 

「グェ―」

 

道路に倒れ込んだ私を、朝吉は軽がると担ぎ上げると軽トラックの荷台に放り込んだ。

 

薄れゆく意識の中で、私は朝吉に捕まえられそうになって抵抗する先輩を見た。

しかし、捕まえられ、かき集められた内臓と共にやはり荷台に放り込まれていた。

 

そしてそのまま軽トラックは走り出してしまった。

 

つづく

 

 

 

嫁の家出 (実業之日本社文庫)

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  • 作者:中得 一美
  • 発売日: 2020/02/07
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