体の大きくなったニャン太を狭い台所だけで生活させておくのは不可能だった。ナナコたちの次の課題は、ニャン太を外へ出すべきか否かというものだった。
リョーヘイは外へ出す事には真っ向から反対した。家飼いのネコは外へ出すべきではない。大家さんに見つかったら、どうするんだよと。それにネコエイズなんていう今時の病気に罹る危険性だってあるんだぞと。
ネコエイズ?
また聞き慣れない言葉にナナコは戸惑った。
リョーヘイが言うには、野良ネコを中心にネコエイズが蔓延していて、、ケンカなどで咬み付かれた場合に感染するのだと言う。ニャン太はオスなので、縄張り争いもあるだろうし、ケンカになればやられることもあるだろう。
そうなると感染する確率が高くなってしまうとリョーヘイは言う。
それに第一外飼いすれば、家の中が汚くなってしまう。今だって掃除が大変なのに、これ以上汚れたらどうするんだ?
俺は知らないぞ、とリョーヘイは最後には半ば脅すように言った。
確かにニャン太が来てからは、アパートの部屋の中は、ネコの体臭やエサの臭い、糞尿の臭いで、ゲンナリすることが多かった。
その上ネコの出入りで、足を一々洗ってやったりするとなると、たいへんな手間が掛かるだろう。
だが、それ以上にナナコは、毎晩のように外へ出せと、玄関ドアの前で、ニャーニャー鳴くニャン太の声に眠れなくなっていたのだ。
それは月夜の晩が特に酷かった。
夜行性のネコは夜になると活動し始める。ニャン太の体内にもしっかりとそのサイクルは備わっているようで、昼間は台所の椅子の上で、ぴくりともせず眠っているのに、夜になると活発に動き回るのだった。
それに、ヘタレのニャン太が縄張り争いに積極的に加わるとも思えなかった。ケンカに負けるのは悔しいけれど、いざとなれば逃げ出してくるのではないかと、ナナコはそんな風に、都合良くも考えてもいた。
ネコエイズも怖いけれど、大家さんの目もあるけれど、それよりも何よりもナナコは、ニャン太には、のびのびと生きて欲しかったのだ。
狭い台所しか提供出来ない我が家だけれど、カリカリのペットフードしか与えてやれないけれど、せめて、自由に外を歩き回ることぐらいはさせてやりたい、ナナコはそんな風に願っていたのだった。
つづく