そう熱弁を振るうナナコに、リョーヘイも最後には根負けした。
だが本音を言うと、リョーヘイも毎夜毎夜繰り広げられる、外へ出せ出せというニャン太のコールに、睡眠を邪魔されていたのだっだ。
リョーヘイはただでさえこの頃、不眠症に悩まされていた。夜、眠れなかったのだ。そこへ来て、ニャン太のしつこい鳴き声には参ってしまっていたのだった。
ナナコはその事に全く気づいていなかった。否、気づいたとしても、ナナコに何が出来たのだろう。それはその後に続く嵐の前触れだったというのに、まだ誰もそれに気づいてはいなかったのだった。
そんな訳で、とうとうニャン太には、夜間の外出許可が降りることになった。ニャン太は夜更けになるとそわそわしだして、玄関前でニャーニャーと鳴いた。
ドアを開けてやると、喜び勇んで飛び出して、そのまま朝まで帰ってこなかった。そして明け方近くになると、また玄関ドアの向こう側で、今度は入れろ入れろと、鳴くのだった。
それを合図に、寝室の入り口付近に寝ていたリョーヘイが、寝ぼけ眼をこすりながら、ニャン太のために玄関を開けてやるのだった。
当初は夜だけ出すという約束が、いつの間にか崩れ、昼間でもニャン太は堂々と外へ出て行くようになった。ナナコたちの住むアパートの周辺には、畑がまだ随分残っており、ネコが一匹二匹暮らしていても分からなかった。
ニャン太はその畑の中でこっそり糞尿も済ませてきているようで、玄関のネコトイレの砂がいつまでたっても綺麗なままだった。ナナコは密かに喜んでいた。
だが、その代わりにニャン太の体の汚れようは日に日に凄まじくなっていった。畑の砂や埃を毛の中にたんと吸ってきたし、足の肉球も柔らかい肌色から、いつの間にかコールタールがベッタリと付いたように黒くなり、堅くなった皮膚は鱗のように幾重にも重なリ合った。そんな足をいくら濡れティッシュで拭いたところで綺麗になるはずもなく、部屋の中はいつもザラザラと砂や土が舞い込むようになってしまった。
こうなるともうニャン太は完全なる外飼いのネコだった。
つづく
つづく