リョーヘイの顔はどんどんどす黒くなっていった。いつかナナコに見せたあの猿山の猿の顔に変貌していくようだった。
顔つきだけでなく、一人ゴミ箱を足の間に抱えて、夕飯がわりの落花生をバリバリと殻をむきながら食べるその姿も、なんだか獣じみて見えるのだった。
ナナコはもちろんのこと、今ではツトムにすら声を掛けることがなくなっていた。三人は行き場もなく、ただテレビの大きな笑い声だけが聞こえる中、黙って夕食をとった。それは苦行にも近いことだった。
そんな中、リョーヘイの暗い気持ちは、ニャン太へと向かっていった。
夕方になり、帰って来たニャン太がニャーニャーと玄関の前で鳴くと、わざとドアを開けなかったりした。
可哀相に思ったナナコやツトムがドアを開けると、「汚いッ! 入れるなッ!」という怒鳴り声が飛んでくる。
そして、夕食を食べ終えたニャン太が三人の居る居間へ来ようとすると、「あっち行けッ! このバカ猫ッ」と、物を投げつけるようになった。
リョーヘイにとってニャン太はまるで、この世の全ての不潔さを代表する何かのようで、これ以上、自分の聖域を穢されたくない様子だった。
リョーヘイがあんまりニャン太を目の敵にするので、ナナコもツトムもその扱いには苦労するようになった。
それでなくともニャン太は、狭いこのアパートの一室の、更にテーブルや食器棚のごちゃごちゃと置いてある台所の玄関脇にしか、自分のスペースがなかったのだが、ナナコとツトムは、そこから何とか動かないように工夫させなければならなかった。
気を遣ったナナコが頻繁に台所の床を雑巾で拭いても、それでもニャン太が外から持ち込む足裏の砂はどうしても残り、それが今ではすっかり神経質人間へと変貌してしまったリョーヘイの怒りを買うことになってしまうのだった。
ツトムはそんなニャン太を心配して、台所の隅でよく頭を撫でながら、
「ダメだぞ、ニャン太、ちゃんとしなくっちゃ。でなきゃ、また父さんに叱られるぞ」
などと諭したりしていた。
だがニャン太はどこ吹く風で、いくらリョーヘイに怒鳴られようが、物を投げつけられようが、好きな時に部屋へ入ってきては、頭を撫でてもらおうとするのだった。
つづく
そろそろ梅雨明け・・・。
この季節ですね。(*´ω`*)