寝室で騒いでいたかと思うと、リョーヘイは台所へ出て行った。そうして、またもやテーブルの上の物を倒し、冷蔵庫や電子レンジと格闘し始めた。
「やめて、やめて」といくら言ってもリョーヘイには届かない。
怒号と物の壊れる音、倒れる音など、凄まじい音が聞こえてきた。
「……」
ナナコは身体が震えてきた。もはや為すすべがなかった。ただただ一刻も早く酒が抜けるのを祈るだけだった。
ナナコが後ろから見ていると、ふらふらしながら何も倒すものがないと知ったリョーヘイは今度は流しの下の扉を開いた。
「―!!」
ナナコは絶句した。そこには、包丁が仕舞ってあるのだ。
「やめてーッ!」思わずナナコはリョーヘイの後ろからしがみつく。
リョーヘイは、ナナコを見て、ニヤリと笑った。まるで今初めてナナコに気づいたとでも言うような微笑だった。
ナナコはリョーヘイの手から包丁をもぎ取ると、「もう止めて」と哀願した。
「ねぇ、もうこんなこと止めてよ。一体何が楽しいの。一体どうしたいの? ねぇ、あなた一体どうしちゃったの……? ねぇ、ねぇったら……」最後は涙声になってしまった。
「……」
リョーヘイはしばらく焦点の合わない目でナナコを見つめていたが、やがてナナコを振り払うと立ち上がった。そして今度は玄関のドアに向かって突進していった。
「―!!」
ナナコは驚いた。
リョーヘイはこんな風になっても、まだ一度も外へ飛び出したことはなかった。
全ては家の中だけで収まっていたのだ。
それが外へ出るということは、世間に向って一家の恥を晒すということだった。
つづく
*しばらく更新できなかったのですが、
今日からまた「ニャン太を探して」の続きをアップしたいと思います。
どうぞお楽しみください。
(と言っても、しんどい話なので、楽しめるかどうか…(*´ω`*))
☆それでは今日も良い一日を。
もう、すっかり、夏ですね~☆