ニャン太の手術は一日の入院で終わった。
ナナコは仕事から帰ったあと、ツトムと一緒に動物病院へ迎えに行った。
看護師に抱かれて現れたニャン太は、ナナコたちを見ると、ピョンとその腕の中から飛び出して、部屋の隅の方へとブルブル震えながら隠れた。
可哀相に、よっぽど怖かったんだね、ニャン太、とナナコは思った。
いつもはふてぶてしい顔つきで、近所を睥睨しているニャン太だが、ここではまるで意気地がなかった。
「あらあ、お母さんが来たから、喜んじゃって」とまだ若い看護師はそう言って屈託なく笑った。
「……」
そんなことではないだろう、とナナコは思った。
ニャン太は自分の身に起きたことにショックを受けているのだ。だから震えているのだ。果たしてニャン太はこんな仕打ちをした私たちを許してくれるのだろうか。ナナコの気持ちは暗澹となった。
支払いを済ませてから、「ニャン太」と呼ぶが、やはり来ない。
石像のように動かず、じっとしている。
仕方なく、隅から引きずり出すと、ようやく「ニャア」と鳴いた。
その後からは、堰を切ったかのように、鳴き始めた。
ニャー、ニャー、ニャーと、それは止まることを知らなかった。
ニャー、ニャー、ニャゥゥゥゥ……と甘えるように鳴いては、ナナコの腕にしがみつく。
それはまるで、「どうして、こんなことをしたのさ」「なんで一人ぼっちにしたんだよ」という非難にも似た叫びにナナコには聞こえた。
“寂しかったんだよ”“怖かったんだよ”そう言いながら、ニャン太はいつまでも鳴き続けた。爪を立てて必死にしがみついてくるニャン太をひっぺがし、無理やり篭に入れてもなお、ニャン太は鳴き続けた。
鳴き止まぬニャン太の入った篭を下げて、ナナコとツトムは夕暮れの住宅街を家に向かって歩き出した。
ツトムは篭を撫でて言った。「ニャン太、もう大丈夫だよ。大丈夫だからね」そう慰めていたが、ニャン太には通じなかった。
ニャゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
ニャー、ニャー、ニャー
とニャン太のしつこく鳴く、そして切ない声だけが、誰もいない住宅街に響き渡るのだった。
つづく