リョーヘイの乱暴な運転に、ナナコの顔は恐怖で引き攣っていた。
すでにナナコの身体は、車の激しいバウンドで座席から半分ほど浮き上がり、ドアの取っ手にしがみついている状態だった。
「危ないッ! スピードを落として!」
ナナコは何度もそう叫びそうになった。けれど、まるで能面のような無表情なリョーヘイの横顔を見ていると、声を掛けることが出来なかった。
リョーヘイは明らかにナナコを拒否しており、そして、これがリョーヘイの報復だということがナナコには痛いほど分かっていた。
彼の中には無理やり起こされ、無理やりドライヴに連れ出された怒りが充満しており、危険な運転で二人を怖がらせたいという思いがひしひしと伝わってきたのだ。
俺の力を見ろ、俺を恐れろ、敬え、そんな雰囲気がその横顔には漂っていた。
「……」
こうなるともうナナコに出来る事は祈ることだけだった。
ナナコはサイドボードに手を掛け、目を瞑りながら祈った。
神さま、どうぞ無事に家まで辿り着けますように。私たちが事故など遭わずに無事に帰り着きますように―。
その時、角の先から、一台の車が見えた。あわやぶつかる!
と思った瞬間、急ブレーキを掛けたナナコたちの車は、生け垣に頭を突っ込むようにして止まった。
「……」
つづく