帰りの電車の中で、ナナコはどっと疲れが出てしまった。
それはリョーヘイも同じらしく、座席にドカッと足を広げて座っていた。
幸い混む時間帯はとっくに過ぎていたので、車内は空いていた。
二人とも無言だった。
ナナコは窓から見える暗い街並みの灯りが流れていく様を見ながら、さっきの医者とのやりとりを思い出していた。
先生は怒っていた?
私が急に行ったから?
感情的だったから?
「……」
ナナコは女医のきれいにネイルされた指先を思い出していた。
そしてその前でまるで叱られて立たされている子どものようなリョーヘイの姿。
それはナナコが今までに見たことのないリョーヘイだった。
あんな若い女に言いたいように言われて、それでもしゅんと黙っているなんて……。
情けなかった。
そんな夫が哀れでならなかった。
何とかしてやりたかった。
だから、どこか魂が抜け落ちたような、リョーヘイの呆けた横顔に向って同情を込めて声を掛けた。
「ねぇ、病院を変えない?」
「……」
リョーヘイは黙っていたが、やがてポツリと言った。
「いい」
「なんで?」ナナコはいきり立った。
「何もあそこでなくとも、もう少し親身になってくれる所があるかもよ」
「……」
しばらく目を天井にキョトキョトと動かしていたリョーヘイだったが、ナナコの方を見ずに言った。
「あそこがいいんだ。あの先生が」
そう言って下を向いた。
「―!!」
つづく