トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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「ニャン太を探して」82

「う……ん。顔が痛い……」
しゃがれた声でリョーヘイがつぶやいた。


朝の仕事へ行く準備をしていたナナコは、忙しく身体を動かしながら、「当たり前でしょ!」と怒鳴った。

 

「一体、夕べ何があったと思っているのよッ!」そうリョーヘイに向かって吐き捨てた。

 

「……」

 

リョーヘイはまだ酒が抜けないようで、何も言わずに目を瞑り赤い顔で布団の中にいた 。

 

パトカーが去った後も、リョーヘイの奇行は止まらなかった。外に出て裸足のまま走りまわり、塀の上からジャンプしたりして、顔をしたたかに地面に打ちつけたりした。

 

その時はさすがに「痛い……痛いよぉ……」と転げまわっていたが、しばらくすると、今度は道路を走ってきた車めがけて飛び出して行った。

 

車は慌てて急ブレーキを踏み、キキーッという音がしたが、その前に立ちはだかったリョーヘイはクラクションを鳴らされても動じず、そのまま道路の上に仰向けに寝転んでしまった。

 

そして、「さあ、殺せーッ! 殺せーッ!」と喚いていた。

 

困った運転手がそのまま走り抜けようとすると、リョーヘイはすばやく身体を横に転がして道を開けた。

 

その横を車は通り過ぎていった。

 

「……」

 

それらをハラハラしながら見守っていたナナコだったが、だんだんと馬鹿らしくなってきた。

 

リョーヘイはナナコが止めれば止めるほど、その手を振り切って、走り回る。まるで子どものように、まるで何かに解放されたかのように……。

 

それならば放っておいた方がマシではないか。

 

ナナコは、リョーヘイを一人残して家の中へ入った。台所はいつも以上に物が散乱していた。全ての物がめちゃくちゃに破壊され、床に散らばっていた。

 

「……」

 

馬鹿馬鹿しい……とナナコを思った。全てが馬鹿馬鹿しかった。

リョーヘイも、アルコールも、この生活も、そしてこんな生活に閉じ込められている自分自身も―。

 

全てが馬鹿馬鹿しかった。

もう何もかもが嫌だった。

 

ナナコは玄関の扉を閉めた。壁掛け時計を見ると、既に三時を回っていた。

 

そうして、フラフラと寝室へ入ると、着替えもせずにそのまま布団に包まった。

 

もうどうにでもなれ! そう思っていた。

 

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つづく