トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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「ニャン太を探して」48

その頃には、夜だけでなく、昼間でも猛々しい雰囲気をリョーヘイは纏い始めていた。

 

ある日、「ただいま」と言って帰ってきたリョーヘイの唇から血が出ていた。

「お帰り―!?」と振り向いたナナコは驚いて、「どうしたの? それ」と尋ねた。


「え? ああ、これ」とリョーヘイはナナコの視線をかわす様に下を向き、「喧嘩した」とポツリと答えた。


「ええッ!?」ナナコは仰天した。


喧嘩だなんて、一体誰と? と追求するナナコに、リョーヘイは、「車が歩道に止めてあったから、蹴飛ばしてやったんだ。すると持ち主が出てきて、喧嘩になった」と面倒くさそうに言った。


ナナコは呆れた。


「それで、それでどうしたの?」堰を切ったように問うナナコに、


「当然、向こうが悪いんだから、怒鳴りつけてやったよ。そうしたら、相手が殴ってきたから、殴り返してやったんだ。それだけさ」と肩をすくめた。


「殴ったって……」とナナコは絶句した。


夫は今までそんなことをする人じゃなかったのに……と、ナナコは青くなってしまった。


どうしよう……!? 夫が別人になってしまった!! どうしよう……!!


しかしリョーヘイは、そんなナナコの不安な気持ちなど全く意に介さずに、


「そうしたら、通りかがりの人が、“まあ、まあ、まあ”って言って止めにはいってくれたんだよ。だから“気をつけろ”って言って、それでお終いになったけど。

 

けれど、世の中には奇特な人がいるもんだね。俺だったら、そんな他人の喧嘩なんか無視するけどね」と表情も変えずにそう言った。


「……」


何も答えることが出来ずに沈黙しているナナコに、まったくいい人だ、とつぶやくリョーヘイの声だけが部屋に響いた。


しばらく黙っていたリョーヘイだったが、やがてポツリとつぶやいた。


「俺、生まれて初めて人を殴ったんだ。子どもの頃だって、喧嘩で人を殴ったことなんかなかったんだけど、初めて殴ったんだ」


「……」

 

「でも、あんまりいいもんじゃないな。他人を殴るなんて」


ナナコはもう夫をどう捉えていいのか分からなかった。


リョーヘイの身体は、何か得体の知れない怒りで充満しており、それがいつ爆発するのか分からないようだった。

 

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つづく