ツトムが寝入ったあと、ナナコはまだ一人酒を注いでいるリョーヘイの前へ座った。
「……」
リョーヘイは何も言わなかった。
「ねぇ」とナナコは声を掛けた。それでもリョーヘイは何も言わない。ナナコは痺れを切らして、「分かっているわよね」と鋭く声を上げた。
「何を?」怒ったようにリョーヘイは返事した。
「何をじゃないわよ、夕べのこと。一体どうしたっていうの? あんなに大声を出して」
しばらく考えるように目を泳がせていたリョーヘイだったが、やがて心外だとでも言うように、口を尖らせた。
「いやあ、覚えていない。何かの間違いじゃないか?」
ナナコは呆れて、
「間違いな訳ないじゃない!? 夕べは本当に大変だったんだよ、あんなに酔っ払って、大きな声出して。二階の人、起き出したらどうするつもりだったのよッ!」と激高した。
「……」
やはりしばらく目をキョトキョトして考えていたリョーヘイだったが、すぐに大きくかぶりを振り、
「いやあ、そんなことない。俺は何もしていない。君の勘違いだよ、俺がそんなことする筈ないだろう」ときっぱり言い切った。
ナナコは体の力が抜けた。
それじゃあ、何? 夕べのことは、私の妄想だとでも言うの?
「そうなんじゃない?」事もなげにリョーヘイは言った。
「君はそういうとこあるからさ」
「そういうとこって何よ?」
ナナコの声が刺々しくなる。
「そういうとこさ」
とリョーヘイは顎をしゃくった。そして続けた。
「やってもいないことをやったと言って、人を貶めるところ」
「……」
ナナコは唖然とした。何を言っているんだ、コイツは—!? 私が嘘をついているとでも言うの?
怒りのために、真っ赤な顔で睨みつけているナナコを無視して、リョーへイは、コップ酒を飲んだ。もうこちらの方を見ようとはしない。それは、これで終わり、もう話すことは何もないという、リョーへイの合図なのだ。
ナナコは黙って部屋を出た。だが、その胸には怒りが渦巻いていた。
つづく
こういうのも、とんとスーパーでは見かけなくなりましたね。