リョーヘイの言葉にナナコは少なからずショックを受けていた。リョーヘイがそんな風に思っていたなんて、知らなかった。ただ酒を飲んで暴れているだけだと思っていたのに……。ダメな奴だとばかり思っていたのに……。
「俺を殺してくれ、それでひと思いに……。なぁ……」
玄関の中からそう聞こえてくるリョーヘイの切ない声が、ナナコの胸に突き刺さった。
そうか、そんなに苦しかったのか……。
ナナコは思わず涙ぐむ。
ごめんね、分かってあげられなくて。……
「ご主人、死ぬなんて言っちゃあいけませんよ。ほら、奥さんだって、困っているでしょう。奥さんの為にも生きなきゃ」
警官はそう言って、ナナコの方を指差した。けれど、リョーヘイはナナコの方など目もくれずひたすら警官に取り縋っていた。
「なぁ、俺を殺してくれ、頼む。みんなが俺をバカにするんだ。俺のことをみんなでバカに……」そう言って、泣きはじめた。
「なんて言ってバカにするんですか?」警官はあくまで同情的だった。
「俺のこと、家も買えない貧乏人だって言うんだよ。二階の奴がうるさいんだ。だから俺は眠れないのに……。引越したいのに……なのに、俺みたいな安月給じゃあ、家なんか買えないって言うんだよ」
そう言ってリョーヘイは男泣きした。
「えっ!?」とナナコは唖然とした。開いた口が塞がらなかった。
リョーヘイはナナコがいくら持ち家を買いたいと持ちかけても、「そんなの無理だ」の一点張りで、どんなに誘っても物件の一つすら見に行ったことがなかったのだ。
だから、てっきり家など興味がないものだと思っていたのだ。
それなのに、なんだよ、お前、言ってることとやってることがあまりにも違うじゃないか―!?
つづく