「うんうん、分かりました」
警察官は泣いているリョーヘイの肩を優しく叩くと、
「家はきっと買えますからね。ほら元気を出して」と言った。
そして、ナナコの方へ振り向くと、
「奥さん、ご主人もこう言っているんですから、家くらい買ってやればいいじゃありませんか? こんなに引っ越したがっているんだから」と半ば責めるような口調で言った。
え!?
ナナコは絶句した。それは違うだろう? と思ったが、とっさに言葉が出てこなかった。
「……」
まごまごしているうちに、もう一人の警官が、「じゃあ、大丈夫そうですので、我々は帰ります」と言った。
ナナコは驚いて、帰りかけている彼らの前に駆け寄った。
「で、でも、今夜連れて行って、拘置所にでも一晩入れてもらえませんか。このままだと危なくて、私一人じゃどうしようもなくて……」
しかし警官は、「大人しいじゃないですか?」と呆れたように言った。
「今はね!」とナナコの声のトーンが跳ね上がった。
「でもそれまでは暴れていたんです。証拠もあります。どうか家の中を見てください。テーブルとか倒れているんです。家の中めちゃくちゃなんですッ!」
「う~ん」
警官は明らかに迷惑そうだった。そして、振り返ってリョーヘイに言った。
「もうご主人、しませんよね」
ナナコは驚いた。
ナニ イッテンダ アナタガタハ ……。
するとリョーヘイは大人しくコクンと頷いた。
警官はほらあと言わんばかりの表情になり、
「ご主人もそう言っているので、もうしませんよ。それじゃあ、何かあったらまた連絡してください」
そう言って、再びサイレンを鳴らさずに静かに帰って行った。
「……」
つづく