リョーヘイは、「やる、やる」と言いながら、一向に金田との話し合いをしようともせずに、まるで金田が諦めるのを待っているかのようだった。
ナナコはそんなリョーヘイにほとほと嫌気がさしていた。
また毎日のようにやってきては、家の前で怒鳴っている金田に対しても頭に来ていた。
だからある日、いつものように金田が来て、チャイムを鳴らした時、ナナコはゆっくりとドアを開けた。そして言葉少なに返事をした。
「はい? 何か?」
虚を衝かれた金田は一瞬ひるんだようだったが、すぐに請求書をナナコの鼻先へと突きつけた。
「奥さん、いい加減に払ってくださいよ。もう修理は終わっているんですよッ!」金田の鼻息は荒かった。
だがナナコも負けてはいなかった。
暗い顔つきで金田を睨みつけ、
「その件は、夫が話をすると言っているんです。もう少し待ってください!」それだけ言うと、扉を閉めようとした。だがドアが閉まる前に、慌てて金田は靴を入れてきた。
「―!」
驚くナナコに、金田は、
「あのね、もう待てないんですよ。こっちも工場から修理代はまだかって言われているんだ。こっちだって困っているんだよ! マジにお願いしますよッ!」と最後は泣きが入ってしまった。
「でも主人が……」となおもナナコが言い募ろうとすると―
「お宅のご主人だって、ちゃんと払いますから、もう少し待ってください、ってそればっかりで。一体、どうなっちゃってるんだよッ!」金田は吐き出すように言った。
え、払うって言ったの? リョーヘイが!?
ナナコが混乱しているうちに、金田は、「じゃ、これお願いしますよ」と請求書を置いて行った。
「……」
ナナコは唖然とした。
つづく