翌日の夕方、ナナコが夕食を作っていると、トントンと玄関のドアを叩く音がした。ナナコが開けると、金髪ロン毛の青年が立っていた。
咄嗟のことですぐには思い出せなかったが、よく見ると、向かいのアパートの住人だった。
確か建設作業所が社宅として借りている部屋に住んでいると思ったのだが……。
「はい、何か?」とナナコが不審に思って尋ねると、青年は愛想よく切り出した。
「実は、お宅のご主人がこの間夜中に暴れた時にですね。ウチの車に傷がついてしまったんですよ」
「えっ!?」
ナナコは慌てた。
確かに青年の車は駐車場に停めてあるが、この間の騒ぎの時にリョーヘイが傷つけたのだろうか?
ナナコは、金田だと名乗るその青年に促されて、車の傷を見に行った。
「ほら、ここに付いているでしょう?」と嬉しそうに青年が見せてくれたのは、フロントガラスにある、付いているのかいないのか、分からないほどの微かな傷だった。
「え?」とナナコが言葉に詰まっていると、「それとここですね」とまたもや青年は嬉しそうにそう言うと、運転席のドアを指し示す。
そこにも、傷なのか埃なのかさえ判別付かない小さなものが付いていた。
「……」
つづく