「ニャン太!」ナナコは驚いて声を上げた。
ニャン太はナナコの後を付いて来たのだが、自分のテリトリー範囲外になったので、ナナコに連れて行ってくれとせがんでいるのだった。
行きたいのに行けない、だから、一緒に抱っこして連れて行ってくれと言っているのだった。
「ニャン太……」
ナナコは哀れになって、頭を撫でた。
けれど、今日もまたこれから何軒かの物件を見て回らなければならないのだ。とても連れてゆく事など出来ない。ナナコは決断した。
「ニャン太、もうお帰り、ね」そう声を掛けると再び歩き出した。
ニャン太はまるでそこに線でも引いてあるかのように、前へ進めずしばらくウロウロしながら、ニャーニャーと哀しげな声で鳴いていた。
休日の住宅街はシンとして静かだった。その中にニャン太の野太い声だけが大きく響いた。
「ニャーゴゥ、ニャーゴゥ、ナァーゴゥゥ……」
それがまるでナナコには、「待って、僕を置いていかないで!」と言っているように聞こえた。
ごめんね、ごめんね、ニャン太❘。ナナコはそう心の中で呟きながら振り向かず歩いて行く。
けれど背中にはいつまでもニャン太の鳴き声が、冷たい風に乗って追いかけてくるのだった。
つづく
いよいよ夏本番ですね~。