トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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「レンゲの花の咲く頃に」7

翔くんは少しずつ、外の世界に心を開かなくなっていきました。

そうして、一日の大半をポヨポヨとだけ過ごすようになりました。

 

ポヨポヨと居る時だけ、翔くんは元気を取り戻すのです。

翔くんはポヨポヨと一緒に、自由に空想の世界で遊び回りました。

 

そこには何の制限もありません。どんな冒険でも出来ました。

 

ハチのように花の中で眠ったり、子犬のように草原を走り回ることだって出来ました。

そして、翔くんは願えばいつでも元の、あの生まれる前の世界へと帰れるのでした。

 

ある日、あんまり楽しくて我を忘れていたら、誰かの泣き声が聞こえてきました。何だろうと耳をすましていると、それは遠くから聞こえるママの声でした。

 

驚いた翔くんが慌てて見に行くと、ママが部屋の中でひとり静かに泣いていました。

 

ママは一人息子の翔くんが、あまりにも自分に心を開いてくれないので泣いていたのです。

 

どうすることも出来ずに、その様子をしばらく上から見下ろしていると、襖が開いて翔くんのパパが入ってきました。

 

パパは電気もつけない真っ暗な部屋で、ママが泣いているのに驚いたようでしたが、やがてママの肩を優しく抱くと、一緒に泣き始めました。

 

翔くんのパパは何かと言うと、「お前の育て方が悪い」なんて、ママを怒ってばかりいるのに、

今夜はどうしたことかふたり肩を震わせ泣いているのでした。

 

翔くんは戸惑いました。

 

どうしてママもパパも泣いているの?

ボクはそんなに悪いことをしているの?

 

両親のそんな姿を見ると、どうにも居たたまれなくなり、その夜、翔くんは早々に天上から戻ってきました。

 

背中に羽のついた子どもたちが、「もう少し遊ぼうよ」と引き留めたのですが、翔くんは首を横に振りました。なんだか早く帰ってあげなければと思ったのです。

 

ママやパパのすすり泣く声が、翔くんの胸をぎゅっと締め付けていました。その声を聞くと翔くんは、どういう訳かとっても苦しくなったのです。

 

だから早く帰って、ふたりを安心させたかったのです。

 

大丈夫だよ、ボクはここにいるよ。

ボクはママたちの側にいつもいるよと。

 

その日以来、翔くんは、少しずつ人間世界にも馴染むように努力をしました。

 

もうママを悲しませたくなかったからです。

 

翔くんはいつの間にか、どんな時でも自分の味方でいてくれる、ママのことが大好きになっていたのです。

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つづく

 

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