翔くんは少しずつ、外の世界に心を開かなくなっていきました。
そうして、一日の大半をポヨポヨとだけ過ごすようになりました。
ポヨポヨと居る時だけ、翔くんは元気を取り戻すのです。
翔くんはポヨポヨと一緒に、自由に空想の世界で遊び回りました。
そこには何の制限もありません。どんな冒険でも出来ました。
ハチのように花の中で眠ったり、子犬のように草原を走り回ることだって出来ました。
そして、翔くんは願えばいつでも元の、あの生まれる前の世界へと帰れるのでした。
ある日、あんまり楽しくて我を忘れていたら、誰かの泣き声が聞こえてきました。何だろうと耳をすましていると、それは遠くから聞こえるママの声でした。
驚いた翔くんが慌てて見に行くと、ママが部屋の中でひとり静かに泣いていました。
ママは一人息子の翔くんが、あまりにも自分に心を開いてくれないので泣いていたのです。
どうすることも出来ずに、その様子をしばらく上から見下ろしていると、襖が開いて翔くんのパパが入ってきました。
パパは電気もつけない真っ暗な部屋で、ママが泣いているのに驚いたようでしたが、やがてママの肩を優しく抱くと、一緒に泣き始めました。
翔くんのパパは何かと言うと、「お前の育て方が悪い」なんて、ママを怒ってばかりいるのに、
今夜はどうしたことかふたり肩を震わせ泣いているのでした。
翔くんは戸惑いました。
どうしてママもパパも泣いているの?
ボクはそんなに悪いことをしているの?
両親のそんな姿を見ると、どうにも居たたまれなくなり、その夜、翔くんは早々に天上から戻ってきました。
背中に羽のついた子どもたちが、「もう少し遊ぼうよ」と引き留めたのですが、翔くんは首を横に振りました。なんだか早く帰ってあげなければと思ったのです。
ママやパパのすすり泣く声が、翔くんの胸をぎゅっと締め付けていました。その声を聞くと翔くんは、どういう訳かとっても苦しくなったのです。
だから早く帰って、ふたりを安心させたかったのです。
大丈夫だよ、ボクはここにいるよ。
ボクはママたちの側にいつもいるよと。
その日以来、翔くんは、少しずつ人間世界にも馴染むように努力をしました。
もうママを悲しませたくなかったからです。
翔くんはいつの間にか、どんな時でも自分の味方でいてくれる、ママのことが大好きになっていたのです。
つづく
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