「……くん、翔くん、何をそんなに泣いているんだい?」
ある日、いつものように翔くんが、精一杯大声を上げていると、そんな声が聞こえてきました。
驚いて見ると、天井近くに黄色くてふわふわとしたものが浮かんでいました。よく見ると、その物体には小さな手足がついていて、大きな黒い目玉がギョロリと、ふたつ付いているではありませんか。
「君はだれ?」翔くんが尋ねると、
「オイラかい? オイラ、ポヨポヨって言うんだ」
ふんわりとしたものが漂いながら言いました。そして、
「さあ、もう泣くのはおよし、オイラが遊んであげるからね」
そう言うなりポヨポヨは、両手で思い切り、自分の頬っぺたを引き伸ばしました。その顔は目が
両端に寄り、ベローンと舌がでて、まったく間の抜けた顔に見えました。
思わずケラケラと笑った翔くんに、ポヨポヨは、
「ああ、良かった! 笑顔になって。これからはオイラがいつでも遊んであげるからね。もう泣かなくてもいいんだよ」
と嬉しそうに空中をクルクル回るのでした。
それからの翔くんはもうさみしくありませんでした。翔くんが悲しいとき、泣きたいときには、いつでもポヨポヨが現れてくれたからです。ポヨポヨは翔くんの気持ちが分かるのか、絶妙なタイミングで現れては、一緒に遊んでくれるのでした。
「この子ったら、いつも天井ばかり向いていて、気味悪いったらありゃしない。一体何を見ているのかしら」
ある日、ママがため息交じりに、そんなことを言うのが聞こえてきました。
「ああ、子どもにはね、見えないものが見えるって言うから、きっと翔くんにも遊んでもらっている何かがいるのかもよ」
ママの妹のヨウコおばさんが、茶目っ気たっぷりに返事をしていました。
「何かがねぇ」
困惑したようにママは翔くんを見つめるのでした。
「だって姉さん、なかなか赤ちゃんが出来なかった頃のことを考えてみてよ。今は幸せじゃないの。ねー、翔くん」
おばさんは翔くんに相槌を求めました。
それを見ながら、ママは、
「そうね。出来なくても悩み、生まれてからもまた悩み……。親はこうやって、子どもに一生悩まされるのかもね」と自嘲気味に笑うのでした。
いつまで経っても夜泣きが酷く、両親にさえなかなか笑顔を見せてくれない翔くんに、ママはほとほと参っているようでした。
つづく
☆パモン堂の短篇小説はこちらから☆
⇓
「もう一度」人生をやりなおせたら…。
無料公開中!