リョーヘイの変化はそれだけではなかった。やたらと小言が多くなった。
元々神経質な所があり、少しでも部屋が片付いていないと嫌な顔を見せていたが、それが今では、夕方帰ってくるなり、ツトムが玩具を出しっ放しにしていると、
「なんだよッ、これはーッ!」と怒鳴るようになってしまった。
そしてガシャン、ガシャンと猛烈な勢いで、それらを玩具箱に叩きつけるので、台所で夕飯の支度をしているナナコは、気が気ではなかった。
しかし、玩具は細かいパーツに分かれているので、片付けても、片付けても、何かしらが落ちている。終わったと思って安心しているリョーヘイが、それらを素足で踏んづけてしまい、「痛—ッ!!」などと叫び声をあげるのが、ナナコには小気味よく感じられるのだった。
夫が何かにイライラし、日々猛々しくなるのを感じていたナナコが、その朝いつものように、出勤前に新聞を読んでいると、ふとある記事に目がいった。
それは、うつ病などの精神疾患も薬で治りますという内容だった。俄には信じ難いものだった。何故ならナナコは、精神の病は心の問題だとばかり思っていたからだ。それが薬で治るなんて—。
「……」
ナナコの頭の中で、急速にぐるぐると今までのことが甦ってきた。
リョーヘイの不眠のこと、アルコールのこと、そして最近の突飛な行動のこと……。
うつ病が薬で治るのなら、もしかするとこの飲酒の問題も治るのかも……。ナナコには一筋の光が見えてきたような気がした 。
つづく