昼過ぎになってからようやくリョーヘイが目を覚ました。腫れぼったい目で、頭はぼさぼさ、トイレに立った所で、ナナコに気がついた。
「あれ、居たの?」
しゃがれ声だった。
「今日はちゃんと話がしたくて」
ナナコはつとめて冷静になるように声を出した。
リョーヘイに夕べの惨状を見せつけるために、わざと台所はそのままにしておいたのだが、別に悪びれる様子もなく、リョーヘイはナナコの前に座った。
「何?話って」
その態度に思わず感情的になりそうになりながらも、ナナコは話を切り出した。
「私を病院へ連れて行って。一度先生に会わせて。これじゃあ、前より酷くなっているじゃない! 変だよ、何が起こっているの? ちゃんと説明して欲しいのよ」
「……」
リョーヘイはしばらく考えていたが、「いいよ」と言った。
ナナコは拍子抜けした。
「え? いいの?」
「うん、いいよ。いつ行く? 今度は、来週の木曜日だけど」
「じゃ、じゃあ……、それでいい。仕事は休みを取るから」
「あ、それでいいのね。じゃあ俺また寝るから」
そう言って、再び寝室の方へ戻ろうとするので、慌ててナナコは声を掛けた。
「その台所、夕べあなたが全部したんだからねッ! ちゃんと片付けてよねッ!」
「えーっ」
リョーヘイは不満そうな声を出したが、それはなんだか甘えているようにも聞こえた。
リョーヘイが部屋を出て行ったあと、よし!
とナナコは思った。再び力が湧いてき
ていた。とにかく医者に会おう。
そして、この状態を全て話そう。リョーヘイは医者に本当のことを話していないのかもしれないのだから。
都合の悪いことは全部隠して、薬だけ貰っている可能性だってあるのだから、とナナコはそう思った。
そうして、傍らにまだ丸まって寝ているニャン太の頭をごしごしと力強く撫でるのだった。
つづく