その夜、帰ってきたリョーへイに、ナナコは新聞記事を差し出した。
「もしかすると、アルコールも、薬で治るかもしれないよ。一度お医者さんへ行ってみない」
その場で立ったまま記事を読んでいたリョーへイは、読み終わってからもしばらく考えている様子だった。
「……」
「ねぇ、もし薬で治るなら、楽だよ。ほら、入院とか、断酒とかしなくてもいいんだもの」
「……」
「ここは、田舎じゃないんだから、精神科って言っても気軽にいけるし。第一アメリカなんかじゃ当たり前のことじゃない?」
リョーへイの口から小さく溜息が漏れ聞こえた。
「そうだな、一度行ってみるかな」
しめた! とナナコは思った。そして間髪入れず
「どうする? 精神科って言っても、心当たりはある?」と聞いた。
ナナコは駅前の病院を片っ端から思い起こした。だが、精神科の看板を掲げている病院は思い当たらなかった。どうしようかと悩んでいると、リョーへイが思い出したように言った。
「そう言えば、会社の近くに精神科があったな。あそこなら、近いし、そこへ行ってくるよ」
「そ、そう?」
ナナコはホッとした。意外にもリョーへイがすんなり引き受けてくれたのにも驚いたが、その表情が穏やかな事にも気がついたからだ。
だが、そうと決まったら、善は急げ、だ。畳み掛けるようにして、
「いつ、行く?」と尋ねた。
「そうだな……」
しばらく躊躇していたリョーへイだったが、
「明日にでも行ってくるかな」と答えた。
「そう」
ナナコは、ようやく安心した。これでリョーへイを悩ませていたアルコールの問題は解決する、そう思ったのだ。
だが、嬉しそうなナナコとは反対に、リョーへイの顔は、蛍光灯の明るい灯を背景に、青く鈍く光っているようだった。
つづく