……来い。コラッ。出て来いよ、コラ……。
夜中に、リョーヘイの声が聞こえてきた。
布団の中でうつらうつらとしていたナナコは、「またか」と思った。また始まったのか……。
上半身を起こして見ると、天井を向いて寝ているリョーヘイは布団から顔だけを出して、声を張り上げていた。
「オイ、逃げんのか、コラッ! 俺は逃げも隠れもしやしないぞ、コラッ。なあ、オイ、聞いてんのかッ! 逃げんじゃねえぞ、コラーッ!」
開いているにも関わらず、その瞳には相変わらず何も映ってはおらず、ただ濁っていた。まるでその身体には心はないようで、生きている屍のような感じだった。
「……」
リョーヘイは、あの晩以来、こうして夜の十二時を過ぎると、まるできっかりと計ったかのように、声を上げるのだった。それは不思議な光景だった。
大人しく酒を飲んでは倒れるようにして布団に入った夫が、あたかも別人のようになって甦るのだ。まるで制御の利かないパワーショベルのように、無機質で、感情がなかった。
つづく
最近、こういうのしている人が増えてきましたね~。