ある日、ナナコはハナヱさんと二人っきりになった。
ちょうど休憩時間に入り、人が出払っていた。狭い休憩室でナナコが、ハナヱさんと並んでお茶を啜っていた時だった。
ハナヱさんが唐突にこう言った。
「最近、ナナコさん、ちょっと疲れているんじゃない? 何かあったの?」
ナナコは、ギクッとした。何で分かるんだろう。誰にも言っていないのに。けれど、ハナヱさんから優しい口調でそう尋ねられると、思いも掛けずにナナコの両眼からハラハラと涙がこぼれ落ちてきた。
「え!?」
ハナヱさんは驚いたようだった。だがナナコはもう涙を押さえる事が出来なかった。
「実は夫が、夫が―」
あとは激しい嗚咽となって、ナナコの最期の牙城はもろくも崩れ落ちるのだった。
ハナヱさんに一部始終を聞いてもらうと、ナナコはなんだか肩の荷が降りた気がした。しかし、今度はハナヱさんが苦虫を噛み潰したような顔になった。そして「うーん」と言ったきり押し黙ってしまった。
「うーん、どうしたらいいんだろうね。う~ん」
「……」
ナナコはそのハナヱさんの困ったような顔を見て、なんだか可笑しくなってしまった。
そして人の良いハナヱさんを困らせてしまったことを後悔した。ティッシュで鼻を嚼みながら、
「うそぴょん、ハナヱさん、今のは全部、嘘だよ〜ん」
と言って上げたい気がしていた。けれど、それは紛れもない事実で、今、ナナコが直面している現実だった。
つづく