そのとき、またまた戸をたたく音がして、こうさけびました。
「お姫さま、いちばんわかいお姫さま、
わたしにこの戸をあけとくれ、
あなたはわすれておしまいか、
すずしい泉のわくそばで、
きのうあなたがいったこと。
お姫さま、いちばんわかいお姫さま、
わたしにこの戸をあけとくれ。」
これをきいて王さまはいいました。
「いったんやくそくしたことは、やっぱりまもらなければならない。さあ、いってあけておやりなさい。」
グリム童話集1「カエルの王さま」より(相良守峯 訳/岩波少年文庫)
第四章 崩壊
リョーヘイの状況は、一向に良くならなかった。
リョーヘイは、こんな状態になってもまだ、「記憶がない」「お前のウソだ」と言い張った。そうして、目が覚めると、しゃがれた声で、「うう、気分が悪い」とつぶやくのだった。
なら、お酒を飲まなきゃいいのよッ! とナナコは心の中で叫んだ。
ナナコにはどうしてもリョーヘイがうつ病だとは思えなかった。
ただのアル中にしか思えなかった。
お酒さえ止めてくれれば、お酒さえ飲まなければ、こんな状態にはならなかったのに、と思っていた。精神科の病院へ行っても一向に良くならず、むしろ悪化しているかのように見える夫に苛立っていた。
一体、何がどうなっているの―!?
誰かにそう聞きたくても、それに答えてくれる人はいなさそうだった。
つづく