なんだよ、私には受け取るな、と言いながら、相手にはいい顔していたのか……、すべては自分が逃げおおすために―。
ナナコは腹の底からメラメラと怒りが湧いてくるようだった。
もう誰がお前の言う事なんか聞くもんか―!と叫んだ。
ふざけんなッ! あんたの為に、私やツトムがどれだけ怖い思いをしたのか、分かっているのッ!
つくづく情けなく思った。
夫というものはこういうものなのか?
妻や子を守るのが仕事じゃないのか?
それなのに、それなのに、逆にこんな怖い思いをさせて平気だなんて……。
ナナコは一気に気持ちが冷めていった。
そして、もう誰も信用出来ないと思った。
金田はもちろんのこと、夫さえも信用出来ない。
否、今は夫の方が信用出来ないと思った。
夫は、私たちを守るようなそんな人間ではなかったのだ。
自分さえ良ければそれで良かったのだ―
そのことが分かって、ナナコの心は芯から震えた。
つづく