ナナコはもう訳が分からなかった。夫とは言葉が通じなくなってしまったのだと痛感した。
リョーヘイはその夜、酔いつぶれて、居間で寝入ってしまった。ナナコが声を掛けると、目を閉じたままのリョーヘイがボソリとつぶやいた。
「お前は俺を裏切った……」
「―!」
その言葉にナナコが驚いて見やると、リョーヘイの眼からスッと涙がこぼれ落ちた。
「お前は俺を裏切った……。俺は絶対に許さないからな」
そう言うとリョーヘイは、そのままスーッと寝息を立てていった。
「……」
一人取り残されたナナコは、夫の怒りに触れてしまった事に戸惑った。深いため息をつくと、一体何が原因でここまでこじれたのだろうと考え始めたが、よく分からなかった。
だがもう取り返しの付かない所まで来た事だけは確かだった。リョーヘイには依怙地なところがあり、こうと決めたら、梃子でも動かないからだ。
つづく