お姫さまはとうとう泣きだしました。泣き声はだんだん高くなるばかり、どうしてもあきらめがつきませんでした。ところが、こうして泣いているとき、だれかよびかけるものがありました。
「どうなさろうというのです、お姫さま、そんなにひどく泣いて。心ない石でも、おかわいそうにおもいましょう。」
グリム童話集1「カエルの王さま」より(相良守峯 訳/岩波少年文庫)
第七章 もう一度
半年後、一家は戸建てへ引越した。
それは念願のマイホームだった。不思議なもので、探している時には見つからずに、諦める段になると不意に出てくるものだ。ナナコはもう無理だろうと思いながら、最後に入った小さな不動産屋でその物件に出合った。
ちょうど競売で競り落とされたばかりの中古の建売りだった。見に行ってみると、今住んでいるアパートの近くで、何度もその前を通っていたにも係らず気がつかなかった。前の持ち主が二年くらいで手放したものなので、まだ新築と言ってもいいくらいだった。
そして中に入って驚いた。玄関へ入るなり突然ふわっとした空気に包まれたのだ。それはまるで、「いらっしゃい、待ってましたよ」と言わんばかりだった。
「……」
それまで幾多の物件を見たナナコだったが、そんな感覚を受けたのは初めてだった。もうそれで決まりだった。だが、まだ家には最大の難関、リョーヘイが待っていた。リョーヘイは未だに「家なんて」と言っていたが、無理やり呼び出して見てもらうと―
「……」
リョーヘイも何かを感じたようだった。何より周りが静かなのが気に入った。彼の神経には、もう“音”というものは一切受け付けなくなっていたのだ。
初めて自分の部屋が持てるようになったツトムも大喜びだった。だが、夕食時にポツリと言った。
「ニャン太は新しい家が分かるかな?」
「……」
つづく