その骨ばった猫の背中を撫でながら、ナナコはなんだか切なくなった。
あれから八年も経っているのだから、ニャン太はもう十歳のおじいさん猫になっている筈だった。
けれど、こうして元気で相変わらず外で遊んでいられるのは、よほど大切にされ可愛がられている証拠だった。
「ニャン太、お前元気だったかい? いい人に拾われたんだね」
ナナコがそう声を掛けると、ニャン太はニャー、ニャーと鳴きながら、ナナコの体にいつまでも自分の頭をこすりつけていた。
だがやがて、ニャン太はナナコの顔を見上げると、スタスタと行ってしまった。
そうして、一軒の家の前まで来ると、門柱に飛び上がり、ニャアと一声鳴いた。
すると、それが合図となって、白い扉が開き、ニャン太は中へと入っていった。
「……」
ナナコはその様子を見ながら、いつまでもその場に立ち尽くしていた。
ナナコの目からはいつの間にか涙が溢れてきていた。
ニャン太、生きていたんだね、幸せだったんだね、大事にされていたんだね、良かったね、ニャン太……。
ナナコはなんだか一つ肩の荷が下りたような気がした。
思い直して、また重い買い物袋を提げると歩き出し、先ほどのニャン太が消えた家の前まで来ると、黙って頭を下げた。
ありがとうございます。
ニャン太を拾ってくれて。
大切にしてくれて、ありがとうございます。
そう心の中でお礼を言った。
いつの間にか、空気が少し涼しくなっていた。
蜩が鳴いている。
夕日が優しげに住宅街をピンク色に染めていた。
それを眺めながら、もう一度、やってみようかな、と、ふとナナコは思った。
私とリョーヘイとツトムの三人で、
もう一度、もう一度だけ、やってみよう……と、
そんなことを思うのだった。
了
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