家に入ろうとするリョーヘイをナナコは慌てて引き止めた。
そして、夕べのことは、大家さんにだけはちゃんと挨拶に行かなければならないと伝えた。
でなければ、今後は私たちが住みにくくなると。
すると、リョーヘイはあっさり「分かった」といい、夫婦揃って、近所に住む大家さんを訪ねることになった。
定年退職してアパート経営に乗り出した大家さんは、サラリーマン生活が長かったせいか、「男にはそんなときもありますって」と言って大声で笑った。
てっきり「出て行ってくれ」と言われると思っていたナナコは拍子抜けした。それは隣で照れ笑いしていたリョーヘイも同じ気持ちのようだった。
気が抜けた二人は、その晩は言葉少なく夕食も早めに済ませると布団に入った。
夕食時、「顔が痛い……」とつぶやいていたリョーヘイは、ご飯も食べずに焼酎をチビチビ舐めていた。
ナナコはそちらを見ずに、「病院へ行け、病院へ」とだけそっけなく言った。
自業自得だと思っていた。
寧ろこれだけの怪我で済んだのが奇跡なくらいだった。
玄関でニャーという声がしたので、ナナコはニャン太を入れてやった。
つづく