だから翔くんは、幼稚園の園庭で他の子に泥団子を壊された時も、ポヨポヨを呼ぶことをガマンしました。
大嫌いなにんじんがお弁当に入っていたときにも、思わずポヨポヨを呼びそうになりましたが、ガマンしました。
そうしてベソをかきながら残さず食べました。
ポヨポヨは、そんな翔くんの様子を微笑みながら、じっと見守っていました。
時には、「がんばれ!」と応援しながら。
けれど翔くんが、周りのお友達と少しずつ仲良くなるにつれ、その体の色は徐々に薄くなり、元気をなくしていくのでした。
「最近とってもいい子ですよ」
目を細めながら、園長先生が言うと、「そうですか」とママも嬉しそうに答えました。
ふたりは園庭で他のお友達と遊んでいる翔くんを、満足そうに眺めていました。
「ひとりでぼんやりする事がなくなったし、それに、名前を呼ばれるとちゃんとお返事をするようになりましたね。以前は呼ばれても返事がなかったんですよ。
いつもぶつぶつ独り言を言っていてね。他のお友達からは、〝ユーレイと喋っている〟なんて言われたりしたものです」
「はぁ……」
ママは恥ずかしそうに下を向いた。
「正直なところ、私は翔くんがなにか、障害を抱えているのではないかと疑っていたのです。しかるべき病院へ早く連れて行った方が良いのではないかと。隣町にも翔くんと同じようなお子さんがいて、つい先日亡くなったばかりでしたから、ずいぶん心配したものです」
ママはますます身を縮め、うなだれていました。
「でも翔くんの場合は、成長の一過程だったのですね。本当に良かった。あんなに元気になって。
お母さんもよく頑張りましたね、大変だったでしょうに」
園長先生にそう言われ、ようやくママは晴れ晴れとした顔を上げた。
そして、
「これも園長先生をはじめ、先生方のお陰ですわ。有難うございました」とお礼を言うのだった。
翔くんはこの春、無事に小学校へ上がることが決まったのでした。
つづく
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