しかし、その美しく整えられた眉がナナコを見て陰った。
どなたとでもいいたげなその表情に、リョーヘイはそれまでの態度を一変させ、慌てて背筋をピンとさせると、まるで憧れの女先生を前にした小学生のように愛想笑いをした。
「あ、すみません、先生。ウチのがどうしても来たいと言って―」とリョーヘイが言うと、
「あ、そう」と女医は頷いた。そして気持ちを切り替えるように、「どうぞ」とナナコを招き入れた。
医師は最初、リョーヘイに向かって最近はどうだと尋ねた。リョーヘイは相変わらず背筋をピンとさせながら「変わりありません」と答えた。
「眠れないし、寝てもなんだかすっきりしません」そんな簡単なやりとりが二、三あった後、「それではいつものお薬を出しておきましょう」と言った。
「有難うございます」とリョーヘイが頭を下げた。
それで診察は終わりだった。女医は今度はナナコの方へ向き、「で、今日は何か?」と尋ねた。
ナナコは緊張した。傍らにいる夫とは別の内容を話さなければならなかった。
「実は……」と切り出した。
「夫はこう言っていますが、本当は薬と一緒にお酒も飲んでいるんです。そして何故か
そんな日は、夜中の十二時を過ぎると決まって暴れ出すんです」
女医は顔色一つ変えずに、ナナコの顔をじっと見詰めていた。
それはまるでナナコの話が嘘なのか本当なのかを、見極めようとしているかのようだった。
ナナコの額からは冷や汗が出た。だから余計に嘆かなければならない気がした。信じてもらうために……。ナナコの口調は自ずと激してきた。
つづく
暑くなりましたね~…(*´Д`)