翌朝―。
リョーヘイが何か言ったら、思いっきり責め立てようと、ナナコはしばらくその場で伺っていたのだが、顔が痛いと言ったっきり、何も言わなかったので、ナナコは、玄関のドアを力いっぱい叩きつけ、外へ出た。
だが外へでたナナコは、その明るさに一瞬ひるんでしまった。
「―!!」
空は白々とまぶしかった。寝不足の目にはチカチカして痛かった。だがナナコがひるんだのは、それだけが原因ではなかった。
「……」
ナナコはバツの悪い思いで足早に駐車場を横切り、アパートを後にした。夕べのリョーヘイの行動は既にアパート中に知れ渡ったであろう。
近所の人に会うのは嫌だった。会って何と言うのだろう。
「すみませんでした、夫がお騒がせして」とでも言うのだろうか?
それを会った一人一人に言わなければならないのだろうか?
夫の不祥事の為に? この私が……?
そう考えると気が遠くなるのだった。
幸いにも通勤時間帯のピークは過ぎていたので、誰にも会う事はなかったが、少なくとも、近くに住む大家さんにだけは一言謝っておかなければいけないだろうと思った。
そう考えるとナナコの気持ちは暗澹とするのだった。
つづく