ナナコの手の平にポツポツと赤い湿疹が出来始めたのはその頃だった。
しばらく放っておいたが、治るどころか、どんどん広がっていき、ついには洗い物などをするのが辛くなってしまった。
仕方なく、ナナコは仕事の帰りに病院へ寄った。年寄りの医者はナナコの手を見るなり、「ああ、これはアレルギーですね」と言った。
「アレルギー? へえー何ですか、それ?」とナナコは阿呆のように聞き返した。思い当たる節がなかった。
「お宅で何かペットとか飼っていますか」
との医者の問いに、ナナコはギクリとした。
「はい。猫を飼っています」と言うと、医者は頷いて、
「それですね。猫アレルギーです」と言った。
ナナコは驚いて、
「で、でも、私、子どもの頃から猫を飼っていて、そんなこと一度もないんですけれど」と言うと、医者は、
「今まではなくても、急に出るんですよ。アレルギーというのは」と事も無げに言った。
ナナコは力が抜けた。
「はぁ……」
「まあ、ペットには触らないことですね」との医師の言葉に、ナナコが絶句していると、「どうしてもというなら、ゴム手袋をしてから触ってください」と言った。
ゴム手袋をして猫に触る? ナナコはその姿を想像してゲンナリした。ニャン太を触れないなら、なんのために飼っているのか分からないではないか?
「……」
釈然としない面持ちで、ナナコは薬を貰って帰ってきた。
つづく
父の日ギフト