翌日、ナナコは仕事を休んだ。
もう限界だった。もう立ち上がる気力すら残ってはなかった。台所には夕べの暴れた痕跡があちこちに残っていた。
割れた皿や調味料、飛び散ったケチャプの汁、食べ残しのおかず、引きずり倒された電子レンジ、穴のあいた食器棚……もううんざりだった。
連日深夜の大暴れは、ナナコを精神的にも肉体的にも痛めつけていた。
ナナコは頭から布団を被った。とにかく身体を休めたかった。
いつまた起きるかも知れない戦闘に備えて、力を蓄えなければならなかった。
けれど、それがいつ終わるのか誰にも分からなかった。まるで不毛な戦いだった。
そしてカーテンから漏れ入る明るい日差しと、そんな高ぶったナナコの神経では、とうてい眠ることなど出来やしないのだった。
「……」
ナナコは諦めて布団から出た。そして、身支度を整えて、リョーヘイが起きるの待った。
じっと待つ。ただ待った。
そして、今日こそははっきりさせねばならなかった。
一体何が起きているのかを。私達家族に一体何が起きているのかを。
「ニャア」いつの間にかニャン太が来て、ナナコの膝の上に座った。
ニャン太は明け方近くに帰ってきて、いつものように玄関脇に置いてある椅子の上で寝ていたが、今日はナナコが居るので、どうやら甘えに来たようだった。
猫アレルギーと診断されてから、ナナコは極力ニャン太に触らないようにしていた。
湿疹は病院から貰った薬ですぐに治ったが、家の中がこんな風になっているのに、ペットの世話までとても手が回らないという気がしていた。
「……」
ナナコはニャン太の頭を撫でた。
半野良の自由猫ニャン太は、いつでも好きな時に出て行っては帰って来たが、こんな時は主人の苦境が分かるのか、いつまでも寄り添うようにして喉を鳴らしていた。
つづく