一日の仕事が終わると、ナナコはぐったりした。
ナナコはいつも疲れていた。夕陽に染まった帰り道、お茶畑の中をナナコは一人歩いた。
季節は夏に変わっていて、お茶の葉は太く濃くまっすぐに伸びていた。
蜩が遠くの方で聞こえていた。
そんな中を歩きながらナナコはふと、このまま何処へ消えてしまいたい、と思った。
このまま何処かへ、
リョーヘイのいないところへ。
しかし、ナナコにはツトムがいた。
一人二ャン太と留守番をしているだろうツトムが、私の帰りを待っているのだ。
そうして、いつものように二ャン太を膝に乗せ、綿棒で二ャンタ太の耳垢を取ってあげているだろう。
そう思うとナナコは逃げられないと思った。
ツトムをおいて自分だけが消える訳にはいかなかった。
「……」
ふいにナナコの両方の眼から涙が溢れ出してきた。
家に帰りたくない、家に帰ればまたあの苦しい時間が待っている。
でも、帰らなければならない。帰らなければ……。
いつの間にかナナコは子どものように声を上げて泣いているのだった。
そして、重い足を引きずりながら、泣く泣くお茶畑の中を歩いて行った。
そんなナナコを夕陽が赤く染めてゆくのだった。
つづく