「ほしければ、なんでもあげるわ、カエルさん。きものでも、真珠でも、宝石でも、わたしのかぶっている金のかんむりだっていいわ。」
すると、カエルはこたえていいました。
「あなたのきもの、真珠や宝石、またあなたの金のかんむり、そんなものはほしくありません。
けれども、わたしをかわいがって、あなたのお相手、あなたのあそびなかまにしてくださるなら、そして、あなたとならんで食卓にすわり、あなたの金のお皿のものをいっしょにいただき、あなたといっしょのさかずきからお酒をのみ、あなたのねどこで眠らせてくださるなら、もしあなたが、これだけのことをやくそくしてくださるなら、わたしがもぐっていって、金のマリをとってきてあげましょう。」
グリム童話集1「カエルの王さま」より(相良守峯 訳/岩波少年文庫)
第六章 氷の家
秋になった。
夜になると急に冷え冷えとした感じになり、星空が美しく映えるようになった。猫たちにとっても過ごしやすい季節なのか、暗くなるとそこかしこからニャーニャーと相手を誘う声が聞こえてくる。
夕食をもどかしく食べると、ニャン太は外へ出せとばかりにドアをカリカリし始める。
開けてやると脱兎の如く飛び出していった。やれやれ、これでまた朝帰りだわ、とナナコは思った。
食卓に戻るとリョーヘイが真っ赤な顔でビールを飲んでいた。
「……」
ナナコはなるだけそちらの方を見ないようにして、テレビに視線を合わせた。
二人の間にはすでに会話はなくなっていた。素面の時でも不機嫌なリョーヘイだったが、酔っ払うと更に言葉が荒くなった。嫌味や皮肉、突き放したような台詞しか出てこなくなり、もはや会話自体が成り立たなくなっていた。
つづく