トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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ニャン太を探して

「ニャン太を探して」80

「うんうん、分かりました」 警察官は泣いているリョーヘイの肩を優しく叩くと、 「家はきっと買えますからね。ほら元気を出して」と言った。 そして、ナナコの方へ振り向くと、 「奥さん、ご主人もこう言っているんですから、家くらい買ってやればいいじゃ…

「ニャン太を探して」79

リョーヘイの言葉にナナコは少なからずショックを受けていた。リョーヘイがそんな風に思っていたなんて、知らなかった。ただ酒を飲んで暴れているだけだと思っていたのに……。ダメな奴だとばかり思っていたのに……。 「俺を殺してくれ、それでひと思いに……。な…

「ニャン太を探して」78

ナナコは庄田さんを見送りながら、これが逆の立場だったら、どんなにいいだろうと思った。私が庄田さんに「大丈夫ですか?」って声を掛ける立場だったら……。 そんな苦い思いが微かに胸をよぎるが、すぐに消えていった。 正直それどころではなかった。部屋へ…

「ニャン太を探して」77

「えっ?」 見ると、ニャン太だった。ニャン太が階段を上ってリョーヘイの足元で、身体を摺り寄せていた。 「ニャン太……」 ニャン太は、心配そうにリョーヘイの側から離れようとしなかった。ウロウロしながら見守っていた。しかしリョーヘイにはその姿は見え…

「ニャン太を探して」76

リョーヘイは駐車場で、一人二階へ向かって、「テメェ、いい加減にしろッ! 早く降りてこいッ! 降りて来いったら!」などと叫んでいたが、もちろん二階の住人が降りてくるはずもなく、手持ち無沙汰にしていた。 そこで今度は小石を拾っては二階に投げて、「…

「ニャン太を探して」75

受話器の向こうから、ハキハキとした女性の声が聞こえてきた。 「はい、一一〇番です。どうなさいましたか?」 ナナコは息を呑んだ。そして叫んだ。 「早く、早く、来てくださいッ! 夫が、夫が、暴れているんですッ」 パトカーが到着する間、ナナコはパジャマ…

「ニャン太を探して」74

ナナコは慌てて、リョーヘイの後を追った。そして、ドアノブに手を掛けているリョーヘイに後ろからしがみついた。 「お願い、止めて……」 しかし、ナナコがしがみつけばしがみつくほど、リョーヘイは面白がって身体を解こうと揺り動かす。そして、しっかり食い…

「ニャン太を探して」73

寝室で騒いでいたかと思うと、リョーヘイは台所へ出て行った。そうして、またもやテーブルの上の物を倒し、冷蔵庫や電子レンジと格闘し始めた。 「やめて、やめて」といくら言ってもリョーヘイには届かない。 怒号と物の壊れる音、倒れる音など、凄まじい音…

「ニャン太を探して」72

重苦しい食事が終わると、ナナコはまだ食卓にしがみついているリョーヘイを残し、さっさと片付けてしまった。 そして、ツトムと二人で寝室へ入った。ここ最近またアレが始まっており、寝不足だった。少しでも寝ておかなければ体力が持たなかった。 うとうと…

「ニャン太を探して」71

「ほしければ、なんでもあげるわ、カエルさん。きものでも、真珠でも、宝石でも、わたしのかぶっている金のかんむりだっていいわ。」 すると、カエルはこたえていいました。 「あなたのきもの、真珠や宝石、またあなたの金のかんむり、そんなものはほしくあ…

「ニャン太を探して」70

一日の仕事が終わると、ナナコはぐったりした。 ナナコはいつも疲れていた。夕陽に染まった帰り道、お茶畑の中をナナコは一人歩いた。 季節は夏に変わっていて、お茶の葉は太く濃くまっすぐに伸びていた。 蜩が遠くの方で聞こえていた。 そんな中を歩きなが…

「ニャン太を探して」69

子どももこんな風にしてしまった。 夫との関係ももうどうすることも出来ない。 私自身、フルタイムで働く根性もなくて、ずっとパート仕事をしているし。 こんなことでこれから先やっていけるのだろうか。 社会で一人立ちするなんて出来るのだろうか。 そんな…

「ニャン太を探して」68

そんな訳で、一家はいつの間にかリョーヘイの機嫌を伺うようになってしまった。 リョーヘイは酒瓶の袋をカチャカチャ鳴らしながら帰って来ると、ツトムが散らかしてある玩具を無言で片付け始める。 だが玩具を玩具箱に投げ入れるその大きな音で、怒っている…

「ニャン太を探して」67

ショックだった。 あの先生がいい、と言うのは、実質リョーヘイからのナナコへの決別宣言だった。 リョーヘイは妻のナナコより、あの女を、あの女医を選んだということだった。 そう、そういうことなのねとナナコは唇を噛んだ。 なら、もう好きにするといい…

「ニャン太を探して」66

帰りの電車の中で、ナナコはどっと疲れが出てしまった。 それはリョーヘイも同じらしく、座席にドカッと足を広げて座っていた。 幸い混む時間帯はとっくに過ぎていたので、車内は空いていた。 二人とも無言だった。 ナナコは窓から見える暗い街並みの灯りが…

「ニャン太を探して」65

「それが最近では酷いんです! 大声を出すくらいじゃ済まなくなって、今では台所のものを壊したりするんです。救急車を呼んだんですけど、断られてしまって……」 医師はまだじっと見詰めていた。 「こんな時、一体どうしたらいいんですか? どうしたらお酒を…

「ニャン太を探して」64

しかし、その美しく整えられた眉がナナコを見て陰った。 どなたとでもいいたげなその表情に、リョーヘイはそれまでの態度を一変させ、慌てて背筋をピンとさせると、まるで憧れの女先生を前にした小学生のように愛想笑いをした。 「あ、すみません、先生。ウ…

「ニャン太を探して」63

約束の日。 ナナコは早めに仕事を切り上げて、リョーヘイと一緒に病院へ向かった。 待ち合わせの改札で、電車から降りてきたナナコを見るなりリョーヘイは、「ほんとに行くの?」と不安気に尋ねた。 「当たり前でしょ!」とナナコは意気込んだ。 今日こそは真…

「ニャン太を探して」62

昼過ぎになってからようやくリョーヘイが目を覚ました。腫れぼったい目で、頭はぼさぼさ、トイレに立った所で、ナナコに気がついた。 「あれ、居たの?」 しゃがれ声だった。 「今日はちゃんと話がしたくて」 ナナコはつとめて冷静になるように声を出した。 …

「ニャン太を探して」61

翌日、ナナコは仕事を休んだ。 もう限界だった。もう立ち上がる気力すら残ってはなかった。台所には夕べの暴れた痕跡があちこちに残っていた。 割れた皿や調味料、飛び散ったケチャプの汁、食べ残しのおかず、引きずり倒された電子レンジ、穴のあいた食器棚……

「ニャン太を探して」60

救急車を呼んでから、大人しくしていたリョーヘイが、突如また暴れ出したのは、それから二、三日してからのことだった。 ナナコは今度こそもう黙ってはいられなかった。すぐさま消防署へ電話した。しかし、電話の向こう側から聞こえてきたのは、以前とは違っ…

「ニャン太を探して」59

ナナコの手の平にポツポツと赤い湿疹が出来始めたのはその頃だった。 しばらく放っておいたが、治るどころか、どんどん広がっていき、ついには洗い物などをするのが辛くなってしまった。 仕方なく、ナナコは仕事の帰りに病院へ寄った。年寄りの医者はナナコ…

「ニャン太を探して」58

ある夜、あまりにも酷く暴れたので、とうとう我慢できずにナナコは初めて救急車を呼んだ。震える指でプッシュボタンを押すと、深夜にも関わらず電話口からは落ち着いたきびきびとした声が聞こえてきた。 「はい、一一九です。火事ですか? 救急ですか?」そ…

「ニャン太を探して」57

リョーヘイは相変わらず、ひとしきり天井に向かって、「出て来いーッ! バカヤローッ!」と怒鳴った後は、ナナコが隠したボールの代わりに、今度は箒を持ち出してきては、天井をドンドンと突くのだった。 「やめて、やめて」とナナコが制すると、その手を振…

「ニャン太を探して」55

「……」 しばらく相手を睨んでいたリョーヘイだったが、「気をつけろ!」と一言吐き捨てると、踵を返した。 相手の女性はそんなリョーヘイを気にする様子もなく、時計を見ると慌てたように車に乗り込むとそのまま発進させた。 ナナコは運転席に戻ってきた夫の…

「ニャン太を探して」54

ナナコは恐怖でしばらく動悸が止まらなかった。 頭の中が真っ白になっていた。 対向車とはどちらかがバックしなければ通れない幅だった。 リョーヘイはビービークラクションを鳴らして相手を威嚇し始めた。 “お前がどけ”ということだ。 対向車はノロノロとバ…

「ニャン太を探して」53

リョーヘイの乱暴な運転に、ナナコの顔は恐怖で引き攣っていた。 すでにナナコの身体は、車の激しいバウンドで座席から半分ほど浮き上がり、ドアの取っ手にしがみついている状態だった。 「危ないッ! スピードを落として!」 ナナコは何度もそう叫びそうに…

「ニャン太を探して」52

空は晴れ渡っていた。風も気持ちよかった。 だが、この日のドライブは最悪だった。 不機嫌なリョーヘイは、一言も喋らずに黙って運転をしていた。 ナナコはその横で気まずく座っていた。 リョーヘイの運転は荒く、信号が多い道にも関わらず、前の車にピッタ…

「ニャン太を探して」51

踏んでも蹴っても叫んでも、どんなにナナコがアクションを起こそうが、リョーへイは岩のように頑として動かない。 ナナコは泣きそうになった。 一体、どうしたらこの人の心に届くのだろう。 何をどうしたらこの人の心は開くのだろう—。 そんな絶望的な気持ち…

「ニャン太を探して」50

その後ろ姿を見ているうちにナナコは決意した。 今日こそはなんとしてもドライブに行くのだ。 何がなんでも。 もうリョーヘイの都合ばかりに合わせてはいられない。 「……」 ツカツカと光りの射さない寝室へ足音高く入ったナナコは、寝ているリョーヘイの布団…