トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

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ニャン太を探して

「ニャン太を探して」49

日曜日―。 一家はドライブに出掛けることになった。ナナコは天気のよい日には、必ず外へ出たがったが、お酒の切れないリョーヘイは、昼過ぎにならないとなかなか起きては来なかった。 それは前日にいくら約束をしてもダメで……。 だから週末になると、酒が原…

「ニャン太を探して」48

その頃には、夜だけでなく、昼間でも猛々しい雰囲気をリョーヘイは纏い始めていた。 ある日、「ただいま」と言って帰ってきたリョーヘイの唇から血が出ていた。 「お帰り―!?」と振り向いたナナコは驚いて、「どうしたの? それ」と尋ねた。 「え? ああ、…

「ニャン太を探して」47

なぜ医者は、アルコールではなくて、うつ病の薬を出すの? ウチのリョーヘイの問題はアルコールなのよ、とそう医者に問うてみたい気がした。 一緒に病院へ行ってみたい、と一度ナナコはリョーヘイにそう切り出してみたことがあった。 すると、そこにナナコの…

「ニャン太を探して」46

そのとき、またまた戸をたたく音がして、こうさけびました。「お姫さま、いちばんわかいお姫さま、 わたしにこの戸をあけとくれ、 あなたはわすれておしまいか、 すずしい泉のわくそばで、 きのうあなたがいったこと。 お姫さま、いちばんわかいお姫さま、 …

「ニャン太を探して」45

ニャン太の手術は一日の入院で終わった。 ナナコは仕事から帰ったあと、ツトムと一緒に動物病院へ迎えに行った。 看護師に抱かれて現れたニャン太は、ナナコたちを見ると、ピョンとその腕の中から飛び出して、部屋の隅の方へとブルブル震えながら隠れた。 可…

「ニャン太を探して」44

ツトムの方に振り向きナナコは静かに言った。 「ごめんね。お母さんも、ニャン太にこんなことはしたくないのよ。でももう今は時代が違ってきているの。ニャン太がトラブルを起こさずにウチの飼い猫として暮らすためには、こうするしかないのよ」 それを聞く…

「ニャン太を探して」43

リョーヘイは、今やすっかり人が変わってしまっていた。 ナナコが何を相談しても、全ては投げやりで我関せずだった。 彼はナナコたちが学校や仕事場へ出かけた後、昼過ぎになってようやく起きてきては、会社へ出掛けているようだった。 ようだった―というの…

「ニャン太を探して」42

とは言え、ナナコだって本当は、ニャン太の体にメスを入れるのは反対だった。 飼い主とは言え、人間の私達が勝手に彼の体を都合よく改造していい筈はないと思っていた。そんなことは本来許されないことだ。人間のエゴだと思う。 けれど、それは重々承知して…

「ニャン太を探して」41

その日の夜、夕食時にナナコがその話を持ち出すと、リョーヘイもツトムと「え!?」と言ったっきり、押し黙ってしまった。 ややあって、 「反対! 絶対反対」と口火を切ったのは、ツトムだった。 「そんなのダメだよ、そんなことしたらニャン太が可哀相だよ…

「ニャン太を探して」40

オノの話では、どうも秋口ぐらいから、ニャン太がそのメス猫を追いかける姿を度々目撃したということだった。 その猫は、どこかの飼い猫らしく、首輪もついているそうだが、ついにお腹が大きくなり、先ごろオノ家の縁側の下で子猫を産み落としてしまったらし…

「ニャン太を探して」39

「申し訳ありません。あの、もしよろしければ、今までのご迷惑分をお支払いさせていただきたいのですが……」 ナナコはおそるおそる切り出してみた。 すると意外にもオノは、「あ、いいんですよ、そんなつもりじゃあ」とあっさり言った。 「でも―」 と、申し訳…

「ニャン太を探して」38

オノと名乗るその老婆は、お宅の猫が家の台所へ時々忍び込んでは、生ごみを漁ったり、酷い時には、焼いた魚なども浚って行くのだと淡々と文句を言った。ナナコは驚き恐縮した。 まさかニャン太がそんなことをしていたとは……。 ナナコは、ひたすら頭を下げた…

「ニャン太を探して」37

話し疲れて軽く息を吐くと、ナナコは明るく「ちょっとお手洗い行って来ます」と言った。休憩時間はそろそろ終りだった。 「う、うん」ハナヱさんはナナコを痛ましげに見ながら頷いた。 ナナコは洗面所で、泣き腫らした顔を洗った。鏡に映すと、目は真っ赤に…

「ニャン太を探して」36

ある日、ナナコはハナヱさんと二人っきりになった。 ちょうど休憩時間に入り、人が出払っていた。狭い休憩室でナナコが、ハナヱさんと並んでお茶を啜っていた時だった。 ハナヱさんが唐突にこう言った。 「最近、ナナコさん、ちょっと疲れているんじゃない?…

「ニャン太を探して」35

ナナコは、駅前の書店でパートで働いている。 それほどこの仕事に思い入れがある訳ではないのだが、しかし、この時ほど、朝起きて自分の行く場所が、そしてやる仕事があるということが、どれほど有り難い事かを身に染みて分かった気がした。 店長は、四十代…

「ニャン太を探して」34

ツトムは気づく時もあれば、気づかない時もある。けれどナナコは毎回ツトムの寝顔を確認した。 眠っていればよし。 けれど時々ツトムは寝た振りをした。 ツトムにはそういうところがある。気づいているのに気づかない振り。それはツトムなりのナナコへの気遣…

「ニャン太を探して」33

ところが、しばらくは大人しかったリョーヘイのあれが、再び、深夜、現れるようになった。 ドシン、ドシンとボールを天井に投げる音。そしてそれに続く罵声―。 慌てて起き上がったナナコは、リョーへイの口を押さえたが、リョーへイは抵抗した。「ンーンー」…

「ニャン太を探して」32

ツトムが寝入ったあと、ナナコはまだ一人酒を注いでいるリョーヘイの前へ座った。 「……」 リョーヘイは何も言わなかった。 「ねぇ」とナナコは声を掛けた。それでもリョーヘイは何も言わない。ナナコは痺れを切らして、「分かっているわよね」と鋭く声を上げ…

「ニャン太を探して」31

ナナコは、リョーヘイが初めて意識を無くしたその日の夕方、仕事から帰ってきて、唖然とした。 なんと、リョーヘイは、ナナコが出かけたままと同じ姿で寝入っており、一ミリたりとも動いてはいなかった。口は朝と同じようにやはり半開きのままで❘唯一変わっ…

「ニャン太を探して」30

……来い。コラッ。出て来いよ、コラ……。 夜中に、リョーヘイの声が聞こえてきた。 布団の中でうつらうつらとしていたナナコは、「またか」と思った。また始まったのか……。 上半身を起こして見ると、天井を向いて寝ているリョーヘイは布団から顔だけを出して、…

「ニャン太を探して」29

翌朝、リョーヘイは起きられなかった。 ツトムを学校へ送り出した後、ナナコはパートへ出掛けた。出掛ける前にリョーヘイの様子を見に行くと、口を半開きにした状態でだらしなく眠っていた。 「……」 その姿を情けなく思いながら、玄関へ出ると、椅子の上には…

「ニャン太を探して」28

ナナコは声にならない叫び声をあげた。 止めてーッ、止めてよッ。 そうして、リョーヘイの身体にのし掛かった。自分の体重で夫を制しようとしたのだ。だが、リョーヘイはナナコに手足の動きを押さえつけられると、今度は突如、叫び出したのだ。 「バカヤロー…

「ニャン太を探して」27

その日の夕食時には、リョーヘイは晩酌を止めて、寝る前に薬を飲んだ。酒を飲まないリョーヘイはいつになく陽気でツトムに話し掛けていた。そんな夫の様子を見て、ナナコはホッとしていた。 これで良かったのかもしれない、思い切って、お医者さんを勧めて。…

「ニャン太を探して」26

「さあ、あなたのその金のお皿を、もっとこっちへよせてください。いっしょにたべられるように。」 お姫さまは、いわれたとおりにはしてやりましたが、いやいやなながらしたということは、はたからみてもよくわかりました。 グリム童話集1「カエルの王さま…

「ニャン太を探して」25

その夜、帰ってきたリョーへイに、ナナコは新聞記事を差し出した。 「もしかすると、アルコールも、薬で治るかもしれないよ。一度お医者さんへ行ってみない」 その場で立ったまま記事を読んでいたリョーへイは、読み終わってからもしばらく考えている様子だ…

「ニャン太を探して」24

ナナコだってリョーヘイのアルコールの問題に、今まで手をこまねいていた訳ではない。 リョーヘイは酷い時には明け方近くになるまで飲み続け、酔いつぶれるようにして寝入るのだ。当然朝は起きられず、遅刻が続くようになっていた。 遅刻だけならまだしも、…

「ニャン太を探して」23

リョーヘイの変化はそれだけではなかった。やたらと小言が多くなった。 元々神経質な所があり、少しでも部屋が片付いていないと嫌な顔を見せていたが、それが今では、夕方帰ってくるなり、ツトムが玩具を出しっ放しにしていると、 「なんだよッ、これはーッ…

「ニャン太を探して」22

そんなある週末のこと、ナナコが外出先から帰ってくると、珍しくリョーヘイが起きていた。そして、 「ったく、うるさくて、寝られやしない」とぼやいた。 「どうしたの?」とナナコが尋ねると、 「あいつだよ」そう言って、リョーヘイは腹立たしそうに天井を…

「ニャン太を探して」21

ナナコは、ツトムが小学校へ入学すると同時に、駅前の書店でパート勤めをするようになった。子供が学校へ行くようになると、ナナコには何もすることがなくなったからだ。 最初は楽しかった十円二十円をみみっちく節約する主婦の生活にも飽きてきた。もともと…

「ニャン太を探して」20

ある夜、また台所から明かりが漏れていた。 ナナコがドアを開けてみると、目が据わり赤い顔をしたリョーヘイが、日本酒をちびりちびりと飲んでいた。片方の足を別の椅子に乗せてだらしなく座るその姿は、まるで赤鬼のようだった。 「……」 あまりの変貌ぶりに…